- オージェ
- 「ま、いっか。
おれを楽しませてくれたお礼に、
一曲付き合ってあげるよ。」
- フィオナ
- 「え?」
ぐいと強引に手を取られ、ダンスフロアへと
連れ出されてしまった。
- フィオナ
- 「えっと、その……。
いいの?」
- オージェ
- 「うん、いいのいいの。
おれがきみと踊りたくなったから。
ほら、行くよ~。」
オージェが私の右手をとり、腰を抱く。
- フィオナ
- (お、思ったより近いなあ)
ザラやネッソには、よくダンスの練習に付き合って
もらっていたけれど……。
こうして実際に組んでみると、
距離の近さに気づかされる。
- オージェ
- 「せぇのっ。」
- フィオナ
- 「わわっ。」
いつの間にか、早いテンポに変わっていた曲調に
あわせて、私は背後に押し倒されるようにして
フロアへとすべり出していた。
ひょいひょいと軽やかに跳ねるようなステップは、
フォックストロットだ。
- フィオナ
- (わ、わわわっ! 足がもつれる……! 転ぶ……!!)
優雅に、優雅に、と言い聞かせて
手足を動かしながらも、内心では地味にパニックだ。
このフォックストロットというダンスは、
進行方向に向けて、女性は背を向けたまま
結構な速度で進むことになる。
- フィオナ
- 「ひ、ぃ……!」
喉の奥で悲鳴がつぶれる。
ずいずいと大股のオージェの足運びは、
見た目はさぞ優雅で華やかなのだろうが……。
それに押し切られる形で進む私は付いていくので
必至だ。
- オージェ
- 「あはははは、すごい顔~。
ダンスは優雅に、だよ~?」
- フィオナ
- 「……っ!!」