-
静かに宥めるような手が、ふんわりと肩に置かれた。
- 春日
- 「……怒っておられますか?」
- 東条ヒバリ
- 「怒られる覚えはあるんでしょう」
- 春日
- 「……ない、と言えば嘘になりますね」
- 東条ヒバリ
- 「……言い訳くらいしたら?」
- 春日
- 「では、お顔を見せてください」
- 東条ヒバリ
- 「…………嫌」
- 春日
- 「ヒバリ様……」
- 春日
- 「……今回のことは、すべて大旦那様のご命令です」
- 春日
- 「ならば、一介の執事である私に従わないという選択はありません」
- 東条ヒバリ
- 「……わかってるわよ、それくらい」
- 東条ヒバリ
- 「いくらお祖父様の命令でも、せめて私に一言断るくらい……」
- 春日
- 「……それが叶うなら、そうしていました」
- 東条ヒバリ
- 「え……?」
- 春日
- 「解雇する、と言われさえしなければ……」
- 東条ヒバリ
- 「!?」
触らないで、と跳ね除けることもできる。
それでも私は、動かなかった。
……振り返ることはしなくても、拒絶することまではできなかった。
春日の雇い主はあくまで東条家。
お祖父様の命令に背けるはずもない。
それでも、今まで春日は常に私を優先し、絶対の味方でいてくれた。
あんな嘘をついて私から離れたのは、初めてのことだったのだ。
だからこそ、こんなにもショックだった。