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男は憎悪に満ちた血走った目で、こちらを睨みつけてくる。
- 東条ヒバリ
- 「あ、ああ……」
- 八神那由太
- 「……ヒバリさん。 怖がらないで。大丈夫です」
- 東条ヒバリ
- 「で、でも逃げな、逃げないと……!」
- 八神那由太
- 「今は下手に逃げた方が危険です。この場で対処します」
- 八神那由太
- 「…………」
- 通り魔
- 「おまえのせいで、俺は……! 何もかも失ったんだよ!!」
- 東条ヒバリ
- 「……っ! 包丁が……っ!」
- 八神那由太
- 「…………」
- 通り魔
- 「げふっ!?」
- 八神那由太
- 「…………」
- 通り魔
- 「は、放せ! 放せクソが! てめえもあの女の――」
- 八神那由太
- 「動くな」
- 通り魔
- 「ぎゃあああああ!?」
- 東条ヒバリ
- 「な……那由太くん……?」
- 八神那由太
- 「怖い思いさせちゃってごめんなさい。もう大丈夫ですよ、ヒバリさん」
そこに込められた明確な【殺意】に、私の足はがくがく震え始めた。
感情を感じさせない淡々とした声でつぶやき、那由太くんはそっと私の肩に触れる。
そして私を背後に庇いながら、錯乱した通り魔を静かに見据えて腰を落とした。
意味のわからない言葉と共に、男がわめきながら突っ込んでくる。
那由太くんは男と交差する形で、彼の腕を絡めとるように掴んで――。
――顔面を、地面に叩きつけた。
体を地面に押し付け、腕をきつくねじり上げたまま……。
通り魔の悲鳴にぴくりとも表情を動かさず、那由太くんは男を見下ろしている。