オトメイト『スペードの国のアリス ~Wonderful Black World~』公式サイト
- 言って、グレイは席に座ったまま窓へ手を伸ばした。
私は両手でないと上げられなかった重い窓を、片手であっさりと下ろす。
- アリス=リデル
- (……?)
- 席は私が窓側、グレイが通路側だ。
グレイが前傾して窓を閉めたので、私は覆い被さられるような状態になっていた。
- グレイ=リングマーク
-
「アリス」
-
窓を閉め終わったのに、グレイは身を引かない。
閉めた窓に片手を突いたまま、自分の腕に閉じ込めるような距離でじっと見つめてくる。
- グレイ=リングマーク
-
「君は……まだ、夢でみる庭に囚われているんだな」
- アリス=リデル
-
「え……?」
-
慣れない近さで問われ、すぐには言葉が頭に入ってこない。一拍遅れて意味を理解する。
- グレイ=リングマーク
-
「自力で思い出せたのは元の世界の記憶……、それ以上の記憶を、君は今、なんのために探し求めているんだ?」
- グレイ=リングマーク
-
「帰るためか? それとも、残るためか?」
- アリス=リデル
-
「っ……、それは……」
-
その判断をするためにも、まずは記憶を取り戻したい。
そう考えていることはすでに伝えてあるから、グレイも分かっているはずだ。
-
分かったうえで尋ねてくる。進歩していない私へのもどかしさが垣間見えた。
-
彼は私の意思を尊重してくれていた。
しかし、彼自身が望むのは私がこちらに残ることなのだから、当たり前と言えば当たり前だ。
-
当然のことなのに……初めてまっすぐ感情をぶつけられて、その強い眼差しに返す言葉を失う。
- アリス=リデル
- 「探すのは……」
- アリス=リデル
- 「……選ぶためよ。
忘れたまま選ぶなんて、出来ない……」
-
言いながら、なんだか自分自身に言い聞かせているような気がしてきた。
-
ずっとそう考えていた。
やはり記憶を取り戻してからだ、と。
-
でも、本当にそうなのだろうか。
それでいいのだろうか。
- アリス=リデル
-
(じゃあ、すべての記憶が戻れば選べる?
記憶があれば、迷いは消えるの?)
- アリス=リデル
-
(逆に記憶が戻らなければ、私は永遠に選べないということになる。
思い出せるまで、ずっと迷い続けるの……?)
- グレイ=リングマーク
-
「…………」
- グレイ=リングマーク
-
「……アリス。
もし俺が……本当は、君の記憶などどうでもいいと思っている、と言ったらどうする?」
- アリス=リデル
-
「……っ?」
- アリス=リデル
-
「ど……どういう意味……?」
- グレイ=リングマーク
-
「言葉のままだ。
もし、君に協力することにしたのは別の思惑があったからだと言ったら?」
- グレイ=リングマーク
-
「例えば、協力すれば君との時間を多く取れる。
他の誰かに邪魔をされず、二人きりになれる機会も増えるだろう」
- グレイ=リングマーク
-
「君を独占したい……、そんなエゴが、俺の真意だったんだとしたら?」
-
金色の瞳が、背後のシートへ縫い留めるかのように私を射抜く。
-
その目に宿るのは……、本当に、彼の言うようにエゴだけなのだろうか。
- アリス=リデル
- 「…………。
もし、そうだったとしても……」
- アリス=リデル
-
「あなたは、それだけの人じゃない。
向けてくれた優しさの中には本物もあったって、私は信じているわ」