ニケ「……可哀相に」
ラン「……っ!?」

不意にニケの腕が私の背中を抱いた。
ただ、その腕に込められた力は戸惑うように弱い。

ニケ「そんな苦しい思いを……独りで抱えてたんだね」
ラン「ニケ……」
ニケ「その犯人が、憎いよね」
ラン「……っ」
ニケ「君の大切なお父さんの命を奪った奴だ。……許されるべきじゃない」

そっと、腕に力がこもる。
それでもニケの腕が微かに強張っているのが分かって、私は困惑していた。

ニケ「……もっと早く打ち明けてくれたら良かったのに」
ニケ「気付いてあげられなくてごめんね」
ニケ「……僕、パンなんて焼いてる場合じゃなかった」
ニケ「君がそんなに辛かったのに……本当にごめんね」
ラン「そんなこと……言わないで」
ラン「あのパン美味しかったよ。……あれを食べてた時は、悲しい気持ちを忘れられたし」
ニケ「……そう」

ニケの頬が弱々しく押しつけられて、その滑らかでひんやりした感触に私はどきりとした。

ニケ「でもね、もし犯人が見つかっても、君のその手は汚しちゃ駄目だよ」
ラン「……え?」
ニケ「もし君のお父さんを殺した奴が現れたら……」
ニケ「僕がこの手で殺してあげる」

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