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- そこには、床几にのんびりと座ってお茶を飲んでいる人物がいた。
- ???
- 「……何? 今は休憩中なんだけど」
- それは、じっとりとした眼差しが印象的な青年だった。
つやつやとした長髪を櫛で結っていて、着物もきちんとした着こなしをしているのだが、どこか気だるげな印象を受ける。
身なりから予想するに、おそらく庶民だと思うんだけど……。
- 紗乃
- (……この人も『糸』がない。ってことは……?)
- 久賀源十郎
- 「彼は与市。私たちと同じ御庭番の一員だ。
普段は城下町で、町人に扮して情報収集をしている」
- 久賀源十郎
- 「とはいっても、仕事の合間にこの店でだらけていることが良くあってな……」
- 紗乃
- 「なるほど、だからこの店にいるかもって言ってたんですね」
- 与市
- 「はいはい、紹介どうも」
- 与市
- 「で、俺の貴重な休憩を邪魔しているあんたは、一体どこの誰なわけ?」
- すると私たちの話を遮る形で、青年――与市さんが不機嫌そうに文句を言ってくる。
- 紗乃
- (あ、そっか。挨拶もしていないのにいきなりこんな話されたら普通は嫌だよね)
- 紗乃
- 「すみません、自己紹介もしていないのに……!
私は紗乃といいます。どうぞよろしくお願いします」
- 与市
- 「…………」
- 紗乃
- 「……? あの、与市さん?」
- 与市
- 「興味ない」
- 紗乃
- 「えっ?」
- 与市
- 「話ってそれだけでしょ。なら、とっとと出て行ってくれる? 休憩の邪魔だから」
- 紗乃
- (し、辛辣……!)