- 襖に寄りかかった兄・信長は、楽しそうにこちらを見ていた。
- 市
- 「兄上!」
- 兄上は長い腕を伸ばし、私を抱き寄せた。
- 市
- 「おかえりなさい。お疲れではありませんか?」
- 織田信長
- 「ああ。何ともない」
- 市
- 「良かったです。あ、尾張の外はいかがでしたか?
聞くところによると、土地によって生える植物は違うといいます」
- 市
- 「見える景色はやはり尾張とは違いますか?
話し言葉は? 食べるものは?」
- 織田信長
- 「そう勢いづくな。お前は美濃をどれだけ遠い地だと思っている。
この尾張も美濃もそう変わりはない」
- 織田信長
- 「言葉や気候が変わるのはもっと先の地だ。
北に行けば北の良さ。南に行けば南の良さがある」
- 市
- 「そうなのですね・・・・・・」
- 織田信長
- 「お前はつくづく変わっているな。
着物やかんざしには興味を示さずに、国の外の話しになると途端に目を輝かせる」