- 市
- 「あっ……」
- ふいに強い風が吹き、私は身体をふらつかせた。
- 竹中半兵衛
- 「──危ない」
- 半兵衛がぐいと私の腰を掴んで、
自分のほうへ引き寄せる。
- 市
- 「あ、ありがとう」
- その手の、意外な力強さに
なぜだか心臓がどきりと高鳴った。
同時に、すっかり彼の身体から香の匂いが
消えていることに、安堵している自分に気づく。
- 竹中半兵衛
- 「まったく呆れた人だ。
景色がいいからとこんな所まで来るなんて……」
- 間近で見る半兵衛の顔は、やっぱり綺麗で。
長い睫毛や、青みがかった肌は女子のようなのに。
- 市
- (なんでだろう。少し、落ち着かない……)