- 春玄
- 「――何を恐れる必要がある?」
- 梶原景時
- 「なに……?」
- 春玄
- 「景時殿、あなたは正規の道を行ってください。逆落としは俺が先陣を切ります」
- 春玄
- 「この奇襲が成功すればそちらの到着まで時間は稼げるはず」
- 梶原景時
- 「っ、話を聞いていなかったのか?だから無茶だと言って――」
- 春玄
- 「いいえ。俺は必ず成し遂げます」
- 春玄
- 「皆の者、見よ! あそこにいる鹿を……かろやかに岩場を下る姿を!」
- 春玄
- 「あれを辿れば下りられる! 鹿にできて、馬にできぬという道理などあるものか!」
- 源氏軍の兵士
- 「で、でもなぁ……」
- 春玄
- 「ならば、我らの力は平家に届かないのだと諦めるのか?」
- 源氏軍の兵士
- 「……!」
- 春玄
- 「これまでの不遇の時を思えばこの程度の障害、取るに足らず」
- 春玄
- 「一ノ谷に逃れし平家を、一網打尽にするこの機会……
決して逃してはならぬことは百も承知であろう!」 - 春玄
- 「今こそ、我ら源氏の勇猛さを! 力を! 再び平家へ知らしめる時!」
- 春玄
- 「――遮那、いくら傷つこうとも俺は必ずそこへ行く」
- 春玄
- 「心は常に共に……待っていろ!」
- 春玄
- 「勇猛なる源氏のつわもの共よ、心して下れば馬を損なうことはない。
俺に続いて駆け下りよ……!!」
春玄が手綱を引くと、馬は高らかに前足を掲げた。