- 源 頼朝
- 「着けろ」
- 源 義経
- 「え?」
- 源 頼朝
- 「私の首に今、お前が着けてみろ」
- 源 義経
- 「もらって下さるのですか?」
- 源 頼朝
- 「そうだと言っている。早くしろ」
- 源 義経
- 「は、はい……!」
- 源 義経
- 「あ、えっと…兄上……。こちらから着けるのですか?」
- 源 義経
- (背後に回って着けようかと思っていたのだが)
- 源 頼朝
- 「…………」
- 源 義経
- (答えて下さらない。これはこのまま着けないと駄目そうだ)
- 源 義経
- 「では、失礼します」
- 源 義経
- (なかなか紐が結べない)
- 源 義経
- (それにすごく近い)
- 源 義経
- (心臓がまるで早鐘のようだ。兄上にまで聞こえてしまうのではないか……)
- 源 義経
- (早く結ばなければ、身がもたない)
- 源 頼朝
- 「こうして間近で見ると、私とお前はちっとも似ておらぬな」
- 源 頼朝
- 「お前はまるで女のような顔立ちをしている」
- 源 義経
- 「!」
- 源 義経
- 「そ、そうでございましょうか」
- 源 義経
- 「如何でしょうか?」
- 源 頼朝
- 「悪くない」
兄上は私に向かって少し頭を下げ首を差し出してきた。
私は兄上の方へ膝を進めると、首飾りの紐を左右に広げ首へと回した。
早くしなければと思えば思うほど、緊張して手が思うように動かない。
首に腕を回す体勢は、なんだか兄上に抱きついているような感じで、とても気恥ずかしかった。
すぐ近くに兄上の顔がある。
兄上の流れた髪が頬をくすぐり、顔が熱を帯びる。
息がかかるほどの距離で兄上が呟く。
私はなんとかして、紐を結ぶと急ぎ兄上から身体を離した。
兄上は首飾りに視線を落とす。