- 平 教経
- 「遮那王、貴様に勝負を申し込む」
- 遮那王
- 「!」
- 春玄
- 「遮那王。平家との勝負など乗るべきじゃない」
- 遮那王
- 「わかってる」
- 平 教経
- 「俺と戦え、源氏! 言っておくが、俺はさきほどの連中よりずっと強いぞ」
- 遮那王
- 「そうだろうな。刀を交えずとも十分わかる」
- 遮那王
- 「だから、この勝負受けるわけにはいかない。互いに無事ではすまぬ仕合になろう。
鞍馬の山に迷惑はかけられない」 - 平 教経
- 「そう言うだろうと思ったさ。──はっ!」
- 遮那王
- 「!」
- 春玄
- 「俺が」
- 春玄
- 「くっ……!」
- 平 教経
- 「俺を軽くあしらえると思ったか。たかが寺の稚児に、見くびられたものだ。
そんな女のような細腕で」 - 春玄
- 「俺とて源氏の侍の子のはしくれ。遮那王の前に、この俺と手合わせ願おう」
- 遮那王
- (このままではどちらかが、いや、両方とも無傷では済まない。なんとかして止めないと)
- 春玄
- 「なにっ!?」
- 遮那王
- 「春玄!」
- 春玄
- 「!」
- 遮那王
- 「間に合った……」
- 平 教経
- 「止めたか」
- 遮那王
- 「わざと刀を下ろしたか。危険なことを」
- 平 教経
- 「貴様の腕を見たかったからな。
そいつを止めるか、……あるいは、一緒に俺を討つことも出来た」 - 遮那王
- 「そのようなことはしない」
- 平 教経
- 「残念だな。そうしてくれれば、貴様と勝負が出来た」
突然斬りかかってきた教経の刀を春玄が受け止めた。
斬り結んでは離れ、離れては斬りかかる。
二人の実力は互角だった。
春玄が教経に斬られるのはもちろん、春玄が教経を斬ってしまっても不味い。
その時。
教経が、刀を構えていた腕を下ろした。
一方春玄は、流れるまま斬る体勢に入っている。
教経に打ち下ろされた春玄の刀を、なんとか受けることができた。
まっすぐ見据えれば、教経は面白そうに笑った。
してやったり、という顔だ。