- オルガ
- 「……くだらん騒ぎは終わりか」
呟くような、小さな声。
なのに、その場の全員を凍りつかせるような声。
自然と、全員の視線がそこに集まる。
一人の壮年に差し掛かった男が
従者を伴って立っていた。
黒衣の中に、鷹のように鋭い眼が光る。
黒い影……。
ふいにそんな言葉がよぎった。
- ティ
- 「お、お父様……!?」
- ルーガス
- 「父上……!」
この街に住む人間なら誰もが知っていて、
そして少なからず畏怖の念を抱いている人物。
鷹の一族の当主。オルガ。
言い争いをしていた私達からも、
囲んで騒いでいた人ごみからも。
一切の声が消えた。
オルガ一人に、
全てを呑み込まれてしまったかのように。
- オルガ
- 「ハク。この程度のことで、わざわざ私を呼び出したか」
- ハク
- 「申し訳ございません、旦那様。どうやら余計な気を回してしまったようで……」
- オルガ
- 「……まあ、いい。そこの小僧」
視線が、明らかに私の方を向いている。返事を、しないと。
- ジェド
- 「な、何か?」
精一杯肺の中の空気を搾り出して、ようやく出せた声がそれだけだった。