»差分表示
- しばらくの間、その場は沈黙に支配された。
柳さんの視線が、フェンスの外へと向けられる。
そこに広がるのは――新宿の街。 - 柳 愛時
- 「……ここから見える、新宿の街が好きなんだ」
- 小さく聞こえた声には、強い意志が宿っているように感じられた。
- 柳 愛時
- 「今は、変わり果ててしまってるけどな。少し前までは賑やかで、人が多かった」
- 柳 愛時
- 「それこそ軽犯罪なら山ほど起こってた。
どうしようもない街だけどな、それでも人が普通の日常を送れるここが好きだったんだ」 - 柳 愛時
- 「……俺は、人間にとっていちばん大事なのは【当たり前の日常】だと思ってる」
- そして──その目にも、強い意志を感じた。
- 柳 愛時
- 「食べたいものを食べて、仕事をして、家族や友人と過ごして、
1日が終われば安心して眠りにつける――そんな、日常」 - 柳 愛時
- 「それが壊れるのだけは、許せないんだ。……だから、取り戻したい」
- 強い、願い。
それはきっと、柳さんの嘘偽りない気持ちだ。 - 星野市香
- 「……ありがとうございます。こみ入ったことを聞いてしまってすみません」
- 柳 愛時
- 「なに謝ってるんだ」
- 小さく、柳さんが笑う。
そうすると、ぴんと張りつめていた空気がふっとゆるむようだ。 - 星野市香
- (……私、緊張してたのかな)
- 柳 愛時
- 「急に、こんな得体の知れない奴らに協力しろなんて言われたんだ」
- 柳 愛時
- 「誰だって、詮索くらいしたくなるだろう。自分の身を守るためにも、な」
- 星野市香
- 「……柳さんは、得体の知れない人じゃない……と、思います」
- なんて言っていいかわからず、視線をさまよわせながら、つい口にする。
- 星野市香
- (でも……本当にそう、思ったし)
- 柳 愛時
- 「……いや、それはさすがにどうなんだ。警戒心が緩すぎるだろ」
- 星野市香
- 「そうですか……?」
- 柳 愛時
- 「少しは自覚しておけ。……星野、俺も聞いていいか?」
- 星野市香
- 「なんでしょうか?」
- 柳 愛時
- 「お前の、今の目的は?」
- 星野市香
- 「今、の……」