「もう秋ですね。皆さんで何処かお出掛けになったりするんですか?」
店の用で幸介さんと出掛けた帰り、商店街から少し離れた道を歩く。買い物の帰り時々通る道だ。帝都に来た頃は桜が咲いていたこの道も、今ではすっかり紅色に染まっていた。
「皆で出掛けるとは?」
「い、いえ……言ってみただけです……」
私の家族と弥島家の人達は随分違う。最初は変わった家族だと思っていたが、日に日にそれが「変わった」ではなく「そもそも元から違うもの」と考え直す羽目になる。
(今更自分の常識を押しつけるつもりはないけど……)
少し前を歩く背中に目をやると、幸介さんはそれまで気にも留めなかった舞い散る木の葉に興味を示している様子だった。
「秋か……お前の家族は秋になったら出掛けるのか?」
「別に秋だけ、というわけではありませんがうちは家族で店をやっていますし、行楽に出掛けたことはあまりありませんし……帝都では催し事が沢山あるので秋も何かあるのかと思って……」
「何かとは?」
「……紅葉狩りとか?」
ちょうど目の前に落ちてきた紅葉を一枚手に取り、幸介さんはそれをしばらく観察していた。
「ふん、下らない」
紅葉は幸介さんの手を離れ沿道を紅く染め上げていく。私は足を止めてふと見上げる。と、そこには薄い青空に対照的な、鮮やかな紅葉が空を飾っていた。
「わぁ……」
思わず声を出してしまう。今まで何気なく歩いていた道は紅葉街道といってもいい程だった。
「どうした?」
「ここ、綺麗ですね。紅葉が沢山あって……」
「初めて通る道でもあるまいに。毎年この時期になると、この道は落ち葉が邪魔で歩きにくい」
「あの……わぁ、綺麗! とか、紅葉って浪漫があって素敵~! とか……そういう感覚ってないんですか?」
「それは誰に言っているんだ?」
あからさまに怪訝な顔を向けられたので慌てて今言った台詞を訂正するが、幸介さんは無視をして先に行ってしまう。
(いいけどね、別に……この景色を愉しまないともったいないわ。だって、来年にはもうここで紅葉を見ることなんて出来ないんだから……)
鮮やかな紅葉を見ているのに何故だか少し切なくなる。
幸介さんと距離が離れたので急いで駆け寄ると、呆れた顔をして私の到着を待っていた。
「紅葉なんて庭で見られるだろうに」
「それはそうですけど……すみません、お待たせしました。行きましょうか」
「…………」
「幸介さん……?」
今度は幸介さんが紅葉を見上げる。何を考えているのか分からないが、視線は紅葉より先の、もっと遠くを見ているようにも見えた。その姿を見ると先程感じた切ない気持ちが再び胸を刺す。
(切ないっていうか……寂しい感じ? こうして二人で歩くこともなくなるからかな……)
「……まだ時間がある。何処かに寄るか」
「えっ……?」
また店の仕事のことで何か言われるのだろうか? 幸介さんから誘ってくれるなんて珍しいことなので、つい勘ぐってしまう。
「何だ、奢って欲しくないのか?」
「本当ですか……!? ありがとうございます! 何を食べようかな……あっ、赤坂カフェーに新しい洋菓子が出たんですよ! それとも……」
「騒ぐなら連れて行かないぞ」
「ま、待ってください……!」
さっさとまた歩いていってしまうので、慌てて幸介さんの後を追いかける。何処に連れて行ってくれるのかは分からないし、きっと聞いても答えてくれないだろう。誘ってくれた理由についてなら尚更だ。
(でも……理由なんて分からなくてもいいかな。だってせっかく幸介さんと二人で出掛けるんだもの。そういえばこうして二人で歩くのはいつ以来だろう……?)
気付けば幸介さんと肩を並べて歩いていた。
二人の間に紅葉は降り続ける。いつの間にかさっき感じた切ない気持ちはなくなっていた。