- レオン
- 「空を走る馬車なんて最初はぶったまげたけど、乗ってみると案外いいもんだよな。
でも、こんだけ高いとこ走ってると、怖くなったりしねえ?」
- ヴィオレット
- 「あまり考えたことがなかったわ。こういうものだと思っているからかしら」
- レオン
- 「そっか。案外度胸据わってんだな……」
- ヴィオレット
- 「そう?」
- レオン
- 「単に落ちる可能性を考えてねえだけか?」
- ヴィオレット
- 「そうね……。落ちたことがないから……」
- レオン
- 「…………。……よッと!!」
- 不意の掛け声と同時に、レオンが大きく身体を傾ける。
その瞬間――
- ヴィオレット
- 「!?」
- ガタッと揺れる馬車の中、わたしは思わず傍らのレオンにしがみついていた。
- レオン
- 「何だ、やっぱり怖いもんは怖いんだな」
- ヴィオレット
- 「レ、レオン……、あなた……!」
- レオン
- 「約束は守ってるぜ? 俺から抱きついたり好きだって言ったりはしてねえ。
でも、おまえから来てくれる分には、拒む理由もねえだろ?」
- ヴィオレット
- 「そういう問題じゃないわ!」
- レオン
- 「ハハッ……、怒られんのもいいな。おまえ、もっとそういう顔すりゃいいのに」
- ヴィオレット
- 「……?」
- レオン
- 「俺はもっと、おまえのいろんな顔が見たい。そりゃ、レーヌって立場も大事だろうけど――
ただの女としてのおまえだって、絶対魅力的だと思うからさ」
- ヴィオレット
- 「……わたしは……、レーヌとしての責務を果たすことで頭がいっぱいなの。
それ以外のことを求められても、……困るわ」
- レオン
- 「ああ。だから、そうじゃねえとこは俺が勝手に引き出してやる。今みたいに。
怒る顔、笑う顔、拗ねる顔、照れた顔。全部見て、今よりもっと惚れ込んで――
いつかおまえから許しが出たそのときは、死ぬほど好きだって叫んでやる。
覚悟しとけよ、ヴィオレット!」