- ヴィオレット
-
「――あなたは、いつもそう。
痛くても、辛くても、その苦しさを人に見せようとはしない」
- ヴィオレット
-
(儀式のときも、そうだった。
褄紅の言葉通りだとしたら、他の騎士より強い苦痛を抱えているのに)
-
指先に触れた唇越しに、戸惑う気配が伝わってくる。
それでも、わたしは口にする。たとえ彼の誇りを折る言葉だとしても。
- ヴィオレット
-
「……ギスラン。痛いときは、痛いと言って。
苦しいときは、苦しいと言って」
- ギスラン
- 「そんな見苦しい真似ができるか。ましてや……、おまえの前で」
- ヴィオレット
- 「……いいえ、逆よ」
- ギスラン
- 「何のために、だ」
- ヴィオレット
- 「わたしのためよ」
- ギスラン
- 「……っ!」
- ヴィオレット
-
「先程の言葉通り、わたしを信頼してくれているなら……、
わたしには、わたしにだけは、弱いところも見せてほしい……」
- そっと唇を離し、顔を上げかけた瞬間――
- ギスラン
- 「……顔は、上げるな」
- ヴィオレット
- 「ぎ、ギスラン……!?」
- ギスラン
- 「……やかましい。黙ってそのままでいろ」
-
言われなくとも、これでは動けない。
状況を認識するごとに、頬に熱が込み上げる。
彼の表情は窺い知ることもできないけれど……。
間近に感じる鼓動と体温が、何より雄弁に想いを伝えてくれていた。
- ギスラン
-
「……おまえは、卑怯な女だ。
自分は隠し事を抱えているくせに、俺には何も隠すなと言うつもりか。
俺の胸に生まれたこの気持ちまで、すべてさらけ出せというのか……?」
- ヴィオレット
- 「……ギスラン……?」
- ギスラン
- 「――顔は上げるなと言ったはずだ」
-
わたしの言葉を押し留めるように、ギスランは腕に力を込める。
痛くて、苦しいぐらいの強さ。
それはきっと、想いの強さと同じ。
- ギスラン
- 「今の俺は……、おまえに、見せられる顔をしていない」
-
そして多分――、その想いは、わたしにも。