私の鼻先をくすぐるのは、大好きなマカロンの甘い香り!
ルル「どこで食べようかなあ。座れるところがあればいいんだけど!」
アルバロ「そこのベンチなんてどう?……って、今は人で埋まっちゃってるか」
ルル「残念……。あ、じゃあ、昨日見つけた湖のほとりなんてどうかな?」
アルバロ「そうだね。今日はいい天気で陽射しも暖かいし、悪くないんじゃない?」
ルル「うんうんっ、行ってみよう!…………ん?」
アルバロ「ん?」
ルル「……だ、誰?」
目に入ったのは、まぶしいくらいに鮮やかな水色の髪。
なんていうか……、すごく派手な人。
どこにいても目立ちそうな感じ!
アルバロ「誰、なんてつれない態度だね。俺だよ。アルバロ。覚えてない?」
ルル「……う、うーん……。アルバロ……アルバロ……」
アルバロ「悲しいなあ……。本当に覚えてないの?」
こんなに目立つ人と1度でも会ったら、簡単には忘れないと思うんだけど……。
ルル「……ごめんなさい!どうしても思い出せないの」
アルバロ「そっか、残念だなあ。……でもまあ、初対面だしね」
ルル「うん、ごめんなさ──」
ルル「──ま、待って。今、初対面って言わなかった?」
アルバロ「うん、残念ながらそうなんだよね。
君があんまり面白かったんで、つい声をかけちゃったわけだけど」
ルル「面白い……?」
アルバロ「満面の笑みで独り言つぶやきながら歩いてくる女の子って、この学校にはあんまりいないタイプだったし」
ルル「そ、そうなんだ……」
……面白く見えるような変な笑い方でもしてたのかな、私。
なんだか恥ずかしくなってきちゃう……。
アルバロ「それより君、どうしてそんなに楽しそうなの?何かうれしいことでもあった?」
ルル「え? あ……うん!実はマカロンをもらったの!」
ルル「……もしよかったら、えっと、アルバロだっけ? あなたも食べる?」
ルル「そうだ! 1人で食べるには多すぎるしあなたにもおすそ分けするわね」
アルバロ「…………俺に?」
ルル「うんうん」
アルバロ「…………これを?」
ルル「うんうんっ!」
アルバロ「……君さ。変わってるって、よく言われない?」
ルル「? 変わってる?」
アルバロ「自覚してないならいいけど。それで、これを俺にくれるんだ?」
ルル「うん。食べて食べて!すっごく美味しいはずだから!」
アルバロ「ふうん……。なら、もらおうかな。一番美味しそうなのを選んでよ、君が」
ルル「え? ちょっと待ってね」
色とりどりのマカロンが入った箱の中をごそごそと探る。
バニラホワイト、ショコラブラウン、レモンイエロー、ラズベリーピンク、どれもおいしいと思うんだけど……。
あ、ちょうどいいのを発見!
ルル「はい、これ!あなたの目とおそろいの色よ」
アルバロ「……なるほどね。それじゃ、いただいちゃおうかな」
アルバロは意味深に微笑むと、すっと手を伸ばしてきた。
だけどその手は、マカロンじゃなくて、何故か私の手首をつかみ――。
ルル「えっ!?」
アルバロ「どうせなら、食べさせてよ?」
ルル「え、食べさせてって……」
アルバロ「甘いものは少し苦手なんだ。でも、君が食べさせてくれるなら、ちゃんと食べる」
ルル「…………あの、アルバロ」
ルル「こんなにしっかり手をつかまれてたら、食べさせるも何もないと思うの……」
アルバロ「……残念、意外と冷静だね。でも、確かにその通りかな」
アルバロはそう言って笑い、そのままマカロンにかじりついた。
アルバロ「んー……、やっぱり甘いな。さすがに全部は無理」
アルバロ「俺はひと口で十分だから、残りは返すよ」
ルル「え!?」
きれいな歯形のついたマカロンを手に、私は首を傾げる。
……おいしくなかったのかな?
うーん……。
疑問に思った私は、このマカロンを口の中に放り込んでみた。
…………もぐもぐ。
ルル「……こんなにおいしいのに。甘いものが苦手なんて、残念ね」
アルバロ「……やれやれ。これじゃ駆け引きのしようもないな」
ルル「駆け引き?」
アルバロ「こっちの話。……それより、そんなにそれおいしい?」
ルル「うんっ! すごく!」
アルバロ「ふうん……。どうやら君って、なかなか面白い子みたいだね?」
ルル「……そうかなあ?」
何が面白いのかよくわからない。
アルバロって、変わってるのね。