ルル「ん? 今、後ろで音が――」
ルル「!?」
振り返ると、見たことのない動物がふよふよと浮いていた。
ルル「んん?」
ラギ「……なんだよ」
ルル「しゃ、しゃべった!?」
ラギ「だからなんだよ!」
ルル「何かの魔法? うん、きっとそうよね、だって火トカゲがしゃべるわけないもの」
ラギ「誰が火トカゲだ、燃やすぞてめー!」
ルル「きゃー!」
ルル「…………んんん?」
思わず自分を疑ったけれど、まだそこまでお腹は空いてない。
ルル「ってことは……」
ラギ「くそっ……、余計な体力使ったせいでふらふらするじゃねーか……!」
ラギ「こんな奴の相手してる場合じゃねー。さっさとなんか、食い物……」
ルル「えっ……、ちょっと待って!」
あんなにお腹を鳴らすんだもの、きっとすごくお腹が減ってるんだわ。
ちょうど私の手にはたっぷりのマカロンがあることだし!
ルル「よかったら、これ、食べて!」
ラギ「こ、これって……、なんだ」
ルル「マカロンってお菓子なの。
たっぷりサンドされたクリームが、甘くてとってもおいしいわ!」
ラギ「く、供物か……? 供物だな?」
ルル「クモツ?」
ラギ「エサならいらねーぞ!でも……、く、供物としてなら食ってやらなくもない」
ルル「? よくわからないけど……。お腹が空いてるなら、食べていいよ!」
ラギ「……とりあえずそこに置け。そんで、おまえは離れろ」
ルル「え? う、うん……」
私はマカロンの入った箱を地面に置き、言われるままに少し下がってみた。
火トカゲさんは用心深く私をにらみ、おもむろにマカロンの箱をくわえる。
ルル「あっ……」
ルル「…………」
に、逃げられちゃった……?
ルル「そんなにお腹空いてたのかな?」
気になる。でも……
ルル「あの火トカゲさんは気になるし、やっぱり覗いてみようかな……?」
ミルス・クレアにはああいう動物が、群れで生活してたりするのかなとか、いろいろ想像しているうちに……。
ルル「ま、ますます気になってきちゃった。
ここは自分の欲求に忠実になるべきね!」
ルル「うん。様子を見てみよう!」
そう思いながら茂みを覗いた私は、予想外の光景に固まってしまった。
だって、そこには――。
ルル「え……」
すごい勢いでマカロンを食べていたのは、どう見ても人間の男の子だった。
ラギ「…………」
ルル「…………」
ラギ「……何見てんだコラ」
ルル「え? あ、あの、さっき、ここに火トカゲさんが――」
ラギ「誰が火トカゲだ、燃やすぞてめー!」
ルル「きゃっ!」
ルル「お、お邪魔しました……!」
な、なんだかわからないけど、怒らせちゃったみたい!
私があわててその場から離れると、ちょうど向こうからやってきた別の人影が見えてきて――。
アミィ「ここにいたのね、ルル。
あなたのことが気になったから、ちょっと探していたんだけど……」
ルル「アミィ!ミルス・クレアってすごいのね。不思議なことがいっぱいなのね!」
アミィ「え、え……?何かあったの、ルル?」
ルル「真っ赤な火トカゲさんがお腹ペコペコで、見てみたら人間の男の子が燃やすって」
ルル「マカロンを食べてたのは男の子で火トカゲさんじゃなくって……」
ルル「ん? でも火トカゲさんにも燃やすって言われたような気が……」
アミィ「あの……、ルル。できれば、わたしにもわかるように説明してくれると――」
ラギ「……てめーら、邪魔」
ルル「あ!! さっきの男の子!」
アミィ「ラギさん……!」
ラギ「ぼーっと突っ立ってんじゃねーよ。これだから女は……」
アミィ「ご、ごめんなさい……!」
ルル「ごめんね!」
ラギと呼ばれた男の子は、ぷいっと私たちから顔を背けてさっさと立ち去ってしまった。
ルル「機嫌が悪かったのかな?なんだか怒ってたみたいだけど……」
アミィ「ラギさんは、女の子が苦手なのよ。その……、少し特別な事情があって」
アミィ「彼は、ハーフドラゴンなの。
どうしてか、女の子と過剰に接触すると変身してしまうみたいで……」
ルル「え!?」
ルル「じゃ、私が見た火トカゲさんって……」
アミィはこくりとうなずいた。
道理で火トカゲなんて言われて怒るはずだ。
ドラゴンはすごく誇り高い生き物だもの。
ミルス・クレアは変わった場所だと、何度も実感していたところだけれど、まさかドラゴンまでいるなんて……。
ルル「……本当にすごい学校なのね。ミルス・クレアって」
私は心からそう思ったのだった。