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第五話 [ 三回戦 ルイ VS 瑠璃 ]
- ユベール
- 「三回戦は、誠実さを試させてもらう。ルイと瑠璃の二人は、前へ来てくれ」
- ルイ
- 「おや、私か……。それじゃ、行ってくるよ」
- レオン
- 「おう。おまえのことだから、なんやかんやうまくやるって信じてるぞ!」
- オルフェ
- 「レオン。誠実さを試されてるわけだから、その応援はどうかと思うよ……」
- 茜
- 「瑠璃、頑張るですのー!」
- 瑠璃
- 「はいです! ところでユベール様、どうやって誠実さを見極めるですか?」
- ユベール
- 「いい質問だね、瑠璃。私が思うに、誠実な心を持つ者は、嘘偽りなくありのままの自分をさらけ出せるはずだ。そこで君達には……今まで生きてきて、一番恥ずかしいと思った話を披露してもらいたい」
- 瑠璃
- 「えっ……」
- ルイ
- 「宰相殿、何もそういった話に限定する必要はないのではないかな?」
- ユベール
- 「話したくないのなら、話さなくていい。棄権ということになるだけだからね」
- レオン
- 「ルイ、それはダメだ! 恥ずかしい過去の一つや二つ、暴露してやれよ!」
- ギスラン
- 「ただし、作り話では意味がない。自分の実体験を正直に話してもらおう」
- オルフェ
- 「どんな話を聞いても、僕たちはルイの仲間だよ!」
- ルイ
- 「……滅多に一致団結しない君たちが、そこまでして私の話を聞きたがるとはね」
- ヴィオレット
- 「ルイ、わたしもあなたの話を聞いてみたいわ。聞かせてもらえるかしら?」
- ルイ
- 「……姫のご要望とあらば、仕方ない。私も覚悟を決めよう」
- 瑠璃
- 「うう……。なんでぼくばっかり、恥ずかしい目にあうですか……!」
- 茜
- 「瑠璃、恥ずかしがってる場合じゃないですの。勝負に勝つためには、避けては通れない道ですの……!」
- 瑠璃
- 「……わかったです。姫様のためなら、これくらい、乗り越えて見せるです……!」
- ユベール
- 「では、先にどちらから話すか決めてもらおう」
- 瑠璃
- 「ルイ。ぼくが先でもいいですか?」
- ルイ
- 「ああ、構わないよ。お先にどうぞ」
- 瑠璃
- 「じゃあ……話すです。実は昔、茜と入れ替わりごっこをしたことがあって……」
- ヴィオレット
- (入れ替わりごっこ? そんなの、初耳だわ……)
- 瑠璃
- 「そ、その時に……姫様は気付かないまま、ぼくの目の前で着替えを……」
- レオン
- 「ちょ、ちょっと待て! おまえまさか……見たのか!? 畜生、うらやましい!
俺だって見たことないのに……!」
- ヴィオレット
- 「あなた……、何を言っているの!」
- 瑠璃
- 「姫様、誤解しないでほしいです。ぼく、すぐに出て行ったから、何も見てないです……!」
- 茜
- 「あ、だから瑠璃、あのとき顔が真っ赤だったんですの!?」
- 瑠璃
- 「うっ……」
- レオン
- 「……俺、騎士じゃなくてヴィオレットの蝶になりたい。つうか、ヴィオレットと一つ屋根の下とか……最高すぎるだろ!」
- 茜
- 「レオンなんてお断りですの! この猛獣!」
- レオン
- 「んだと? 俺は猛獣なんかじゃ――ん?」
- オルフェ
- 「何か……、ものすごい寒気が、後ろから…………」
- ユベール
- 「瑠璃。今のは……、聞き捨てならないな」
- レオン
- 「げっ」
- 茜
- 「ユベール様、怖いですの……」
- 瑠璃
- 「あ、あの……ごめんなさいです。ぼく……、その……」
- オルフェ
- 「えっと……、今の話だと瑠璃も悪気はなかったみたいだし。
子供のしたことだしさ、大目に見てあげようよ」
- ルイ
- 「だが、こう見えて彼も男だからね」
- オルフェ
- 「ルイ! 火に油を注いじゃダメだってば!」
- ギスラン
- 「この程度で騒ぐとは……くだらん」
- ユベール
- 「ギスラン、君は……まったくわかっていないな。姫に関することで、くだらないことなどない」
- レオン
- 「そうだ! 無関心でいられるなんて、どうかしてるぞ!」
- 茜
- 「それでも姫様の騎士ですの?」
- ギスラン
- 「う、うるさい。今はそれよりも勝負を――」
- ユベール&
レオン&茜
- 「それよりも?」
- レオン
- 「信じられねえ……。ヴィオレットより、勝負の方が大事なのかよ」
- ギスラン
- 「~~~っ。今日はそのために集まったのだろう! 審判、見てないでこいつらをなんとかしろ!」
- ルイ
- 「姫に助けを求めるとは……。クリザンテームの怒れる刀も形無しだね」
- ギスラン
- 「なんだと……!?」
- ヴィオレット
- 「みんな、そこまでよ。ギスランの言うとおり、今は勝負の途中でしょう?」
- 瑠璃
- 「姫様……、ごめんなさいです。ぼくのこと、嫌いになりました?」
- ヴィオレット
- 「いいえ、そんなことはないわ。瑠璃は正直に話してくれたもの。その様子だと、ずっと気にしていたのでしょう?」
- 瑠璃
- 「はい……」
- ヴィオレット
- 「もう気にしなくていいわ。わたしも怒ったりしないから。ね?」
- 瑠璃
- 「姫様……。よかったです……!」
- レオン
- 「納得いかねえけど、ヴィオレットがそう言うなら仕方ねえな」
- ユベール
- 「瑠璃、二度はないよ?」
- 瑠璃
- 「は、はいです……」
- ルイ
- 「となると、次は私の番だね。今の話の後だと、かすんでしまうかもしれないが……」
- レオン
- 「自信もてって、ルイ。いつもは気障なおまえの赤っ恥が聞けるわけだから、みんな期待してるぞ!」
- ルイ
- 「……ならば、期待に応えないわけにはいかないな。あれはそう……ここに来て、すぐのことだ。レオンが姫のハンカチを拾ったのをたまたま見てしまってね。そのまま様子を窺っていたところ、彼はあろうことかそのハンカチを――」
- レオン
- 「お、おい。まさか……」
- ユベール
- 「レオン、黙っていたまえ。ルイ、話の続きを」
- ルイ
- 「ハンカチを手にしたと思ったら……、レオンはそれをくんくんと嗅ぎ、悶絶し、しまいにはこれでもかというほど頬ずりし出したんだ。あのときはさすがの私もいたたまれず……恥ずかしかったよ」
- レオン
- 「な、なんでおまえ、そのことを……!」
- 瑠璃
- 「さっきはぼくに散々文句を言っておいて……、最低です」
- ユベール
- 「レオン、まさかそのまま姫の私物を持ち帰ったのではあるまいね?」
- レオン
- 「ご、誤解だ。ハンカチは、ちゃんとヴィオレットに返した!」
- ヴィオレット
- 「あのときは、わざわざハンカチを届けてくれたことに感謝していたのに。レオン、あなた……」
- レオン
- 「ち、違うんだ、ヴィオレット……! ルイ、お前なあ!!」
- ルイ
- 「ん? 何か問題があったかい? 私は正直に話しただけだが?」
- レオン
- 「俺の秘密を盛大に暴露しただけで、おまえは無傷じゃねえか!」
- ギスラン
- 「貴様はつくづく、同じ騎士とは思えぬ愚行ばかり繰り返すな……」
- オルフェ
- 「さすがの僕も、今回ばかりはフォローしきれないよ……」
- レオン
- 「そ、そんな冷ややかな目で見なくてもいいだろ? ちょこっとヴィオレットの温もりが感じられると思っただけで……」
- 全員
(レオン以外)
- 「……………………」
- レオン
- 「無言で離れていくなよ! だ、大体……さっき瑠璃は決死の覚悟で告白したのに、これじゃ不公平だろ!?」
- 茜
- 「言われてみれば……、そうですの」
- ルイ
- 「そこまで言うなら、別の話を披露しようか。そうだな、次は……」
- ギスラン
- 「? 何故今、意味ありげに俺を見た?」
- ルイ
- 「いや……数日前、君が馬相手に話しかけていたのを思い出してね」
- ギスラン
- 「なんだと。まさか……!」
- ルイ
- 「故郷のことや……ああ、そういえば【あの女】という単語も何度か耳にしたな」
- ギスラン
- 「!!!」
- オルフェ
- 「女? それって、ヴィオレットのことじゃ……」
- ヴィオレット
- 「え……」
- ギスラン
- 「ち、違う! 誰がこの女のことなど口にするか!」
- ルイ
- 「そんなにむきにならなくてもいいだろう?馬を相手にしていた時は、もっと素直だったじゃないか。【あの女がレーヌに相応しいかどうかはともかく、茶の趣味は悪くない】とか」
- ヴィオレット
- 「……本当?」
- ギスラン
- 「違うと言っているだろう!」
- ルイ
- 「それに、【花に囲まれている姿は悪くない。しかしレーヌとは容色の美しさも備えているものなのか。あの女は気に入らないが、あれほど美しい女は地上でも見たことがない】――だったかな?」
- ヴィオレット
- 「……………………」
- ギスラン
- 「黙れ……」
- ルイ
- 「いや、あんな熱烈な言葉を聞いてしまうとは……さすがの私も恥ずかしく――」
- ギスラン
- 「黙れえええ!! 貴様、今すぐこの剣の錆にしてくれる……っ!」
- ヴィオレット
- 「きゃ!?」
- ユベール
- 「姫、私の後ろに。……ギスラン、姫の眼前で抜刀騒ぎとはいただけないね」
- レオン
- 「ど、どうどう! 気持ちは痛いほどわかるけどよ、ひとまず落ち着けって」
- オルフェ
- 「ギスラン、ヴィオレットを怖がらせちゃダメだってば」
- ギスラン
- 「知るか! それより、南の騎士! 貴様だけは許さん!」
- ルイ
- 「そう言われても……。私もたまたま居合わせただけで、見たくて見たわけではないのだが」
- オルフェ
- 「あの……、ひょっとして僕も何か見られてたりするのかな?」
- ルイ
- 「ふふ。さあ、どうだろうね?」
- ギスラン
- 「審判! この様子だと、南の騎士は自分の話をする気はないぞ。なんとかしろ!」
- ヴィオレット
- 「え、ええ。ルイ、他の騎士のことではなく、あなた自身のことを話してちょうだい」
- ルイ
- 「……姫の頼みとあれば、叶えない訳にはいかないね」
- レオン
- 「これだけ焦らしたんだ。さぞかし恥ずかしい話を聞かせてくれんだろ?」
- ギスラン
- 「南の騎士は、口だけは達者だからな」
- ヴィオレット
- (二人とも、ルイに暴露されたのをかなり気にしているわね……)
- 茜
- 「ルイが何を話したところで、瑠璃は負けないですの!」
- 瑠璃
- 「これで勝っても、ちょっと複雑ですけど……」
- ルイ
- 「いやしかし、君にはもっと他に言えないことがあるだろう?」
- 瑠璃
- 「えっ!? な、何言ってるですか。さっき話したことが、ぼくの――」
- ルイ
- 「いいや。以前私が目にした時の方が、よほどすごかったよ。忘れてしまったのかい? あれは……」
- 瑠璃
- 「ひ、姫様。ぼくの負けでいいですーーーーっ!!!」
- ヴィオレット
- 「え!? る、瑠璃、どこへ……!?」
- 茜
- 「姫様、茜が連れ戻してくるですの!」
- ヴィオレット
- 「瑠璃……、茜……」
- ルイ
- 「おや。語らずして、勝ってしまったね」
- ヴィオレット
- 「……いいえ。瑠璃は負けでいいと言ったけれど、あなたは結局、自分のことを話していないもの。だから、引き分けという形にします」
- ユベール
- 「それが妥当だろうね。……私としては彼に誠実さの欠片も感じられないが、瑠璃が敵前逃亡してしまっては致し方ない」
- ルイ
- 「これは手厳しい。……だが、一勝一敗一引き分けか。
となると、ギスラン……君に望みを託すことになりそうだ」
- ギスラン
- 「ふん。俺は貴様のような不甲斐ない真似はしない。
勝負の内容がどんなものだろうと、必ず勝ってみせる」
- レオン
- 「いや、あと残ってるのって思いやりだろ? 終わったな……」
- ギスラン
- 「勝手に終わらせるな! 俺に敗北などありえない。見ていろ!」