COUNTDOWN
発売記念SS
第七話 [ 戦い?が終わって…… ]
-
双子蝶と4人の騎士たち総出の追いかけっこ勃発により、勝負は決着がついたようなつかないようなという微妙な結末を迎えてしまった。
先ほどまでの喧騒が嘘のような静寂の中、残されたヴィオレットとユベールは若干の疲労感を癒そうとお茶を飲んでいた。
- ヴィオレット
- 「……騎士たちとの交流を焦りすぎて、茜と瑠璃には思っていた以上に寂しい思いをさせていたのね。ユベールはそれに気づいていたから、あんな勝負をけしかけたの?」
- ユベール
- 「半分はそうだね。だがもう半分は、単に面白そうだったからだよ、姫」
- ヴィオレット
- 「面白そう、って……」
- ユベール
- 「馬鹿馬鹿しい騒動に巻き込んでしまえば、嫌でも素の性格が漏れ出るだろう。今日の彼らの姿を見ていて、姫はどう思った?」
- ヴィオレット
- 「…………」
- ユベール
- 「馬鹿だと思っただろう?」
- ヴィオレット
- 「そこまでは……。ただ、そうね、わたしが普段見ている姿より、随分砕けている感じはしたわ。……レオンはあまり変わらないけれど」
- ユベール
- 「彼は良くも悪くも常に自分を曝け出しているからね」
- ヴィオレット
- 「ふふ……、確かにそうね」
- ユベール
- 「私の目から見ると、君も含めて皆どこか緊張感にとらわれすぎている気はするよ。与えられた重責を自覚するのは結構なことだが、信頼や絆を深めるにはその緊張感が少し邪魔をしているのではないのかな」
- ヴィオレット
- 「……そう見える?」
- ユベール
- 「ああ」
- ヴィオレット
- 「……ユベールには敵わないわね。自分では自然体でいるつもりでも、どこか肩肘張った部分があるのは否めないもの。未だに彼らと接するとき、どんな言葉を告げるべきか迷ってしまうこともあるわ」
- ユベール
- 「慎重になる姫の気持ちもわからなくはないが。それだけでは先に進むことは難しい。……わかるね?」
- ヴィオレット
- 「はい」
- ユベール
- 「ふふ……、説教をするつもりはなかったのだが、どうもいけないね。案外私も肩に力が入りすぎているのかもしれないな」
- ヴィオレット
- 「そう……? ユベールはいつも通りに見えるわ。彼らがこのパルテダームに来る前から、何も変わらない。……いつも頼ってばかりで申し訳ないくらいよ」
- ユベール
- 「姫に頼られるのは私の仕事であり、私だけに許された役得だろう。レーヌである君を無条件に甘やかすことは難しいが、事情が許すならば私の腕はいつだって開けておくさ」
- ヴィオレット
- 「ふふ……、ユベールにそう言ってもらえると心強いわ。でも、なるべく甘えすぎないように頑張らなくては。わたしはもう、小さな姫ではないのだもの」
- ユベール
- 「…………」
- ヴィオレット
- 「ユベール?」
- ユベール
- 「いや。……頼もしい限りだと思ってね。私の姫は本当に見事な成長ぶりを見せてくれた。きっと君ならば、私の理想通りのレーヌになってくれるだろう」
- ヴィオレット
- 「本当に、そう思ってくれている……?」
- ユベール
- 「ああ。心から」
- ヴィオレット
- 「……ありがとう、ユベール。あなたにずっとそう言ってもらえるように、これからも頑張っていくわ。騎士たちのことも……もう少し柔軟に接することができるように努力します」
- ユベール
- 「期待しているよ。……ところで、姫。茜と瑠璃のことだが――」
- ヴィオレット
- 「はい?」
- ユベール
- 「今日たっぷりと発散したおかげで少しは気も晴れただろうが、あの子たちが寂しがっていたのは事実だからね。今夜はたっぷりと甘やかしてあげるといい。ボヌール卿にあの子たちが好みそうな菓子を用意してもらったから、後でマリオネットに届けさせるよ」
- ヴィオレット
- 「ありがとう、ユベール。あの子たちきっと喜ぶわ。今夜はゆっくり二人の話を聞いて、昔のように三人で一緒に眠るわね」
- ユベール
- 「ああ。……蝶は愛してやらねば惑うものだ。あの子たちも例外ではない。茜と瑠璃は、君が望んだ、君だけの蝶なのだからね」
- ヴィオレット
- 「ええ。肝に銘じておくわ」
- ユベール
- 「さてと……、それでは私はこの辺りで失礼しよう。――ヴィオレット」
- ヴィオレット
- 「はい」
- ユベール
- 「彼らとの物語は、既に始まっている。あとはページを繰って先に進むだけだ。引き返すことはできない」
- ヴィオレット
- 「…………」
- ユベール
- 「……それがどんなに辛い物語であろうとも、ね」
- ヴィオレット
- 「わかっています。レーヌとして、決して逃げたりはしません」
- ユベール
- 「結構。……では、失礼するよ」
-
長いマントを翻して立ち去っていくユベールの後姿を見送りながら、ヴィオレットは冷めかけたお茶を口にする。
騎士たちとの交流はまだ順調とは言えないが、彼らをもっと知りたいと思う気持ちは確かに育っていた。
- ヴィオレット
- 「レーヌとして。けれど……、ただの一個人としても、彼らとちゃんと向き合いたい」
-
少しの不安と、期待。
レーヌ・ヴィオレットの心は相反する二つの感情に揺れながら、まだ見ぬ明日を待つのだった。