- 尾崎隼人
- 「なぁ、ラジオ焼き一個食べてみないか?
もう火傷しないくらいに冷めたしさ、口に合わないかも知れないけど」
- 久世ツグミ
- (……口に合わない、なんて)
その言葉に、ほんの少しだけ胸が痛む。
- 久世ツグミ
- 「なら……一ついただくわ」
- 尾崎隼人
- 「よし、じゃあ、口開けて」
- 久世ツグミ
- 「え?」
- 尾崎隼人
- 「誰も見てないし!
ここはほら恋人同士らしく、あーんって」
- 久世ツグミ
- 「え!? あの自分で……」
- 尾崎隼人
- 「あーん」
こんな時、彼が絶対に諦めないことは予想出来る。
- 久世ツグミ
- 「ひ……一つだけね……?」
私は恥ずかしさを堪えつつ、口を開けた。
- 尾崎隼人
- 「もっと大きく、それだと入らなくて零すぞ」
- 久世ツグミ
- (大きくと言われましても……)
捨て鉢に近い気持ちで、精一杯口を大きく開く。
- 尾崎隼人
- 「ほい」
- 久世ツグミ
- 「……んっ!」
程良く冷めたラジオ焼きが私の口の中に落ちた。
そろそろと噛むと、良く煮込まれた牛すじから
甘辛い汁がじゅっと滲む。
- 尾崎隼人
- 「どう?」
私は頬張ったまま、何度も首を縦に振る。
- 尾崎隼人
- 「そりゃ良かった! 個人的にこのラジオ焼き、
今まで食べた中でもかなり旨いと思うぜ!」
私はまた無言で頷く。
初めて食べたラジオ焼きはお世辞抜きに
本当に美味しくて───。
- 尾崎隼人
- 「どうだ? もう一つくらい食べさせてやろうか」
彼は私が食べ終わったのを見て、嬉しげに言う。
その表情には一点の曇りもない。