※このSSは公式サイト用の企画です。
本編の時間軸とは違うパラレルでお贈りいたします。
※主人公の名前はデフォルト名で設定させて頂いております。
――11月某日、探偵事務所内
白石景之
「そんなわけで、互いの悪口でも言い合おうか?」榎本峰雄
「何が『そんなわけ』なのかわかんねえし、なんで悪口言い合うのかもサッパリなんですけど……?」白石景之
「まあまあ、エノキくん。考えてもみてよ」榎本峰雄
「俺の名前は榎本です! 覚えたんじゃなかったんですか!?」白石景之
「俺たちは“探偵事務所”チームとして、一蓮托生の仲間になったわけでしょ?各々の調査結果を報告するのは至極自然なことじゃない」
柳 愛時
「まともな意見にも聞こえるが……なぜ互いの悪口に繋がるんだ?それに、俺たちは捜査のための情報交換を名目に拠点を構えただけで、チームであることを強要した覚えはない」
笹塚 尊
「一蓮托生とか迷惑な話だしな。せめて等価交換だろ。有益な情報がなけりゃ、ここにいる必要もないし」白石景之
「はは、君たちはドライだなあ。とにかくさ。行動を共にする相手のことを調べるのは当然だよね?
ここ数ヶ月で観察した結果、互いにどんな感情を抱いたか興味あるんだ」
榎本峰雄
「つまり、ただ白石さんが楽しみたいだけってことッスよね?」白石景之
「うん、もちろん。相手の本心を知るには、負の感情がいちばん解りやすいしね」榎本峰雄
「つーか、仮にも協力する相手のこと探ったりしねえし……」白石景之
「ええ? それは君だけでしょ」榎本峰雄
「えっ!? まさか、柳先輩……」柳 愛時
「探る、と言うと言葉は悪いが……。最低限の基本情報は調べておくべきだろう」笹塚 尊
「捜査上じゃ機密を扱うことも多い。よく知りもしねえ奴をほいほい信用するほうがどうかしてる」榎本峰雄
「尊もかよ……。うわー、なんか感じ悪くね? 一緒に捜査する相手のこと裏で調べるとかさ」笹塚 尊
「心配すんな。お前のことは5分も調べちゃいねえ」榎本峰雄
「はあ? どうせハッキングだろ。5分で何がわかんだよ」笹塚 尊
「それなりに解ったけど、聞きたいわけ?お前の恥ずかしい黒歴史とPCの中身含めて、公開してやってもいいけど」
榎本峰雄
「いや、それはいいですやめてください」白石景之
「それで、笹塚くんが調べた結果を一言で言うと?」笹塚 尊
「絶望的なバカ」榎本峰雄
「はい! 絶対それだと思った!!てっめえなあ……! そんなデータ上の情報ごときで、俺の人となりをわかったつもりになってんじゃねーぞ」
笹塚 尊
「そもそも、お前の人となりとか知りたくねえ。事件に関与する隙があるかないか、それだけ。
結果、お前はバカすぎて犯罪者には向いてない。以上」
榎本峰雄
「ぐっ……なんかすげえ理不尽……!」柳 愛時
「落ち着け、榎本。つまり、笹塚はお前の人柄から犯罪を犯すようなタイプじゃないと判断したということだ。それは信用の証でもあるんじゃないか?」
白石景之
「相変わらず、柳くんはフォローが上手いねえ。じゃ、さっそくそれぞれの印象を答えてもらおうかな。
あ、俺に対しても気にせず悪口言ってもらっていいからね」
榎本峰雄
「その前フリ、逆に言いにくいッス……」Q.柳愛時の印象は?
榎本峰雄
「って言われてもなー。柳先輩のことは警察時代から知ってるし、真面目でクールで頼りがいあるっつー印象しかねえけど」
笹塚 尊
「俺は捜査一課に抜擢された経緯のほうが気になるけどな。年齢、経歴からしても異例だろ。能力と推薦次第でどうにでもなるっちゃなるが……」
白石景之
「確かに、柳くんは堅実でコネとか無縁なイメージだからね。そこのところ、どうなの?」
柳 愛時
「笹塚でもデータベースから拾えなかったんだろう。つまり、そういうことだ」笹塚 尊
「……やっぱ機密扱いか。キナ臭えとは思った」榎本峰雄
「えっ……俺の尊敬する柳先輩にそんな大人の事情が……!?」白石景之
「誰でも秘密のひとつやふたつは持ってるってことだよ。君にはそういうの、なさそうだけど」
榎本峰雄
「余計なお世話だっての!! 俺だって、人には言えない深ーい事情が――」笹塚 尊
「あったとして、隠せねえから秘密にならねえけどな」榎本峰雄
「お前らが勝手に掘り出してんじゃねーか!」白石景之
「あ、俺も柳くんの印象を語っておいたほうがいいよね」柳 愛時
「いい。今さらお前に分析されても得はない」白石景之
「つれないなあ。彼らだって知りたいんじゃないの?ほら、好奇心に溢れた目をしてるよ。
そうだなあ……俺しか知らない君のプライベートとか」
柳 愛時
「お前にまともなプライベートを話した記憶はないが」榎本峰雄
「柳先輩の知られざる一面……!」白石景之
「ふふ、柳くんはねえ……。――じつは学生の頃、不良だったんだよ」
榎本峰雄
「はあっ!? 柳先輩が!? 不良!?ま、またまた白石さん。俺たちをからかおうとして……」
笹塚 尊
「なんとなく知ってた」柳 愛時
「……白石。その話はやめろ」白石景之
「うん。昔の血が騒ぎだしたら困るもんね。じゃあ次、いってみようか」Q.榎本峰雄の印象は?
白石景之
「これは特に語ることないよね」笹塚 尊
「そうだな。さっさと次行くぞ、次」榎本峰雄
「もうその流れやめろっての!!俺にもなあ、人間としての尊厳ってもんがあるんだよ!」
笹塚 尊
「だってお前、ここにいてもなんも仕事しねえし。ほぼニートだろ。そんな奴にコメントする時間が無駄」
榎本峰雄
「うっ……反論できねえ自分が哀しい……!――柳先輩! いつものフォローお願いします!!」
柳 愛時
「そうだな……調子に乗りやすいところはあるが、芯の強い、まっすぐな奴だと思うぞ」榎本峰雄
「お、おう……。真面目か……!急に褒められると照れるんですけど……」
柳 愛時
「笹塚や白石は厳しいことを言うが……。お前の力を見込んで協力を頼んだのは俺だ。そして……今、ここにいることを選んだのはお前自身だ。
だから、負い目を感じる必要なんてない」
榎本峰雄
「柳先輩……」白石景之
「相変わらず、柳君は真面目だねえ」笹塚 尊
「つか、峰雄に甘すぎんだよ柳さんは」榎本峰雄
「俺、柳先輩の足だけは引っ張らないように頑張ります……!」白石景之
「あ、そういえばさ。榎本君の愛読書――『胸キュン告白百選』だっけ?俺も買って読んでみたんだけどさ」
榎本峰雄
「だから人のセキララな情報を晒さないでくださ――って、白石さんが自分で買って!? 読んだ!?」
笹塚 尊
「アレ、主張の激しい表紙だったよな……。全面ピンクで『これで君もモテモテだ』とかいうキャッチ付きの」
榎本峰雄
「そんな恋愛指南書を、猫グッズつけた白衣のネコミミ男が……。本屋で……購入……?」
白石景之
「うん? 何かおかしい? すごく参考になったよ」柳 愛時
「……使う機会でもあるのか?」白石景之
「もちろん、色々あるよ」柳 愛時
「その『色々』はできれば知りたくないな……」Q.笹塚尊の印象は?
榎本峰雄
「口が悪い。人情ってモンを知らねえ。冷血漢。ハッキングとかしてるしほぼ犯罪者。
あと、もじゃもじゃ頭のワカメ」
白石景之
「ここぞとばかりに悪口が飛び出したなあ。笹塚君としては反論あるの?」
笹塚 尊
「特にない。タヌキの置物に言われても響かねえし。俺はそれが短所だと思ってねえから」
榎本峰雄
「くっ……。あ! あとアレだよな。そんな俺様のくせに子供っぽいとこあるっつーか、甘いもん大好きでビール飲めねえし、レバー苦手だよな!」
笹塚 尊
「あ? ビールとか飲みもんじゃねえだろ。つか、それが苦手なのと俺の能力になんか関係あんの」
榎本峰雄
「ねえけど、意外と可愛いとこあるよなーって?いいじゃねえか、見た目だけはお子様なんだし。
お前、アメリカじゃ10代に間違えられただろー?」
笹塚 尊
「…………」白石景之
「あ、笹塚君がキレそう。クールなわりに意外と単純な挑発に乗るよね」柳 愛時
「煽るのはやめろ、白石。笹塚の腕は誰もが認める一級品だ。……多少の問題は目を瞑るほどにな。
榎本も、そこは理解しておけ」
榎本峰雄
「へいへーい。わかってますよ」柳 愛時
「だが、食生活に関しては確かに心配だな。ジャンクフードばかりじゃ偏るぞ。たまにはここで夕飯を食っていけ」
白石景之
「出た。柳君のおせっかい。ちなみにこの事務所を住まいにしてるのは柳君と榎本君だけで、笹塚君は必要な時以外、自宅に帰ってるんだよね」
笹塚 尊
「べつに食生活が偏ろうと困ってないんで。それこそ捜査能力に関係ないだろ」
白石景之
「じゃあ、俺が調べた笹塚君の情報も披露しようかな」笹塚 尊
「……白石さん」榎本峰雄
「はいはーい! 俺は聞きたいッス! ワカメの弱点……!」柳 愛時
「白石……榎本相手じゃないんだ。プライバシーに関わることはやめておけよ」
榎本峰雄
「柳先輩!? さりげなく俺のことディスってません!?」白石景之
「笹塚君はね、じつは……」笹塚 尊
「…………」白石景之
「じつは犬が好きだよね?」笹塚 尊
「は?」白石景之
「この前、ビルの前で野良犬と一緒にいてさ。仕方なく相手してるのかなーって思ったら、笑顔でわしゃわしゃ撫でてたんだよね」
榎本峰雄
「た、尊……。お前、そんなテンプレ不良みたいな一面があったのか……!じつはいい奴? 雨の日に傘とか貸しちゃう奴?」
笹塚 尊
「くだらねえ……。たまたま野良犬がまとわりついてきただけ。犬は嫌いじゃねえけどな」
柳 愛時
「……確かに意外だが、微笑ましいな」白石景之
「俺は犬より猫のほうが好きだなあ。従順な子より、気まぐれな子のほうが楽しいじゃない」
Q.白石景之の印象は?
柳 愛時
「……この報告会の意義に疑問が出てきたんだが」笹塚 尊
「今さらかよ」柳 愛時
「個々の能力や、事件に関わるような経歴がないか、互いに調査した結果じゃないのか?」白石景之
「つまり、今のところは不審な情報がないってことじゃない。互いに協力する上では良いことだと思うけどな」
笹塚 尊
「峰雄以外は隠すのが上手いってだけだろ」榎本峰雄
「もうそれは否定しねえけどさ……。白石さんの秘密とか、知りようがないっていうか、知りたくもねえっつうか……」
白石景之
「でも、柳君はともかく笹塚君は改めて調べたでしょ?」笹塚 尊
「経歴だけ見りゃ有能なプロファイラー。科捜研の人間としても功績多いみたいだし、突っ込むとこなくて逆にうすら寒い」
柳 愛時
「……まあ、能力だけは保障する。本来、科捜研は捜査権限を持たないが……。
こいつは科警研のプロファイラーとしても活躍していた関係で、
物的証拠の鑑定、犯罪心理の分析、両方の観点から過去いくつもの難事件の解決に貢献しているからな」
榎本峰雄
「……白石さんって、もしかしなくてもすげえ人……?」白石景之
「そんなことないよ。君が3回くらい生まれ変わっても辿り着けない程度だから」榎本峰雄
「フォローになってねえ!!」笹塚 尊
「俺としちゃ、ネタ横流ししてくれんのは助かるし。まともな話する時はふざけねえから文句はない」柳 愛時
「笹塚の評価は高いみたいだな。能力主義だからか」榎本峰雄
「でも、どっからどう見ても色々怪しいんだよなー……。そうだ、白石さんって友人とかいるんですか?
類は友を呼ぶって言うし、そこから秘密がわかるとか――」
白石景之
「友達……? いないけど」榎本峰雄
「えっ」白石景之
「言ったでしょ。俺は必要のないものは覚えない、持たない主義なんだ。生まれてこのかた、友達と呼べる人間を作ったことはないよ」
榎本峰雄
「お、俺……なんか心の傷えぐっちゃった……?」柳 愛時
「心配するな、榎本。こいつは友達という定義がよくわからないだけだ。いなくても問題ないと思ってるみたいだしな」
笹塚 尊
「でも、柳さんとは付き合い長いんだろ」白石景之
「ああ、そうだね。柳君は旧友……あ、そうか。じゃあ柳君が唯一の友達なのかな?」
柳 愛時
「やめろ、気色悪い。ただの腐れ縁だ」白石景之
「ふふ、そうだね。君とはそっちの表現のほうが合うよ」Q.???の印象
笹塚 尊
「予想通り、特に得られるもんはなかったな。俺は帰る」白石景之
「俺は楽しかったけどね。退屈しのぎにはなったかな。……って、柳君? 何してるの?」
柳 愛時
「白石、お前もまともなものを食ってないだろう。夕飯の余りをタッパーに入れたから持っていけ。ほら、笹塚も」
笹塚 尊
「……どうも」白石景之
「用意がいいなあ。やっぱり柳君ってみんなの――」岡崎 契
「お父さんっていうか、もうお母さんみたいだよね。わあ……やっぱり柳さんの料理は美味しいなあ」
柳 愛時
「だからお父さんはやめろ……って、おい、待て」笹塚 尊
「またこのパターンかよ……」榎本峰雄
「マジでどっから入ってきやがったんだよ!?不法侵入で通報すんぞ現職SP!」
岡崎 契
「え? オレのこと?」榎本峰雄
「てめえ以外に誰がいるんだっつーの!!」岡崎 契
「だって、窓が空いてたから。不用心だよ?」柳 愛時
「ここは5階だ。普通、窓から入ってくる奴はいない。というか、勝手に食べるな」
岡崎 契
「柳さんの手作り、すっごく美味しいんだよね。オレもちょうどタッパー持ってきてるから、お裾分けしてくれない?」
柳 愛時
「はあ……」白石景之
「そこでタッパーに入れてあげる柳君もどうかと思うけど……。で、岡崎君は何の用なのかな。俺たちはもう帰るけど」
岡崎 契
「みんなが楽しそうな話してるから、オレも混ぜてほしいなあって。オレの印象とか聞いてみたいし」
榎本峰雄
「神出鬼没の不法侵入者っていうイメージしかねえよ……」笹塚 尊
「岡崎の相手はお前の仕事だろ、峰雄。じゃ」岡崎 契
「あ、待って尊君! 差し入れにドーナツ買って来たんだよ」笹塚 尊
「……よこせ」白石景之
「……あれだけ嫌がられてるのにめげないし、ここのメンバーの好みも把握してるし……。岡崎君って仕事熱心だよね」
岡崎 契
「ふふ、それほどでも」白石景之
「もちろん褒めてないんだけどね? しつこいって意味だよ?」柳 愛時
「とにかく、岡崎。今日はもう解散なんだ。タッパー持って帰ってくれ」
岡崎 契
「えー……残念だなあ。あ、じゃあ帰る前にオレのみんなへの印象話そうか?」
笹塚 尊
「いらねえ」岡崎 契
「ドーナツもぐもぐさせて、そんなつれないこと言わないでよ。えーっとね、まずは柳さん」
榎本峰雄
「勝手に始めやがった……」岡崎 契
「柳さんは滅多なことじゃ動じないし、頼りがいあるけど……。『守る』ことに怯えてる節があるよね」
柳 愛時
「……なに?」岡崎 契
「オレも守る側だからね、わかるんだ。柳さんは優しいから、誰かのために動ける人のはずだけど……。
何かを犠牲にして『守る』ことを嫌ってる。オレにはそう見えるよ」
柳 愛時
「…………勝手に俺の考えを決めつけるな」岡崎 契
「それから、尊君。言葉は荒いけどすごく優しい人だと思う。心を許した人には無自覚にすごく甘くなりそう。
全部自分でこなせちゃう人だから、他人の手を借りようとしないけど……。
時には自分以外の誰かが、意外なものに気付かせてくれることもあると思うよ」
笹塚 尊
「お前は占い師かなんかか」岡崎 契
「白石さんは――……見た目通り、何考えてるか読み取れないけど。オレの勘では、けっこう単純なんじゃないかなって思うんだ」
白石景之
「へえ? 俺が単純……か。それって榎本君みたいってこと?岡崎君は面白いことを言うなあ」
岡崎 契
「ふふ、もちろん何かを隠してると思うけどね。それも……柳さんにも言えない、とても重要なことを隠してる」
白石景之
「それも、勘?」岡崎 契
「うん。根拠はひとつもないからね。それで、あとは……。あ、峰雄君か。
えーっと……キミはロマンチストだよね。そんなところかな」
榎本峰雄
「…………へっ!? それだけ!?」岡崎 契
「嘘がつけない、いい人だって思うよ」榎本峰雄
「す、すげえ構えてたのに……コメント短くね?」岡崎 契
「それじゃ、柳さんに夕飯のお裾分けしてもらったし、吉成君のところに戻るね。またお邪魔しまーす」笹塚 尊
「二度と来んな。窓に電流流すぞ」柳 愛時
「はあ……。まあ、これでわかったな。一番の要注意人物は岡崎だ」白石景之
「うん、それは間違いなくみんなの共通認識だろうね?」おわり
――12月某日、探偵事務所内
岡崎 契
「ね、柳さんたちって市香ちゃんのことどれくらい知ってるの?」榎本峰雄
「はあ……。毎度毎度、前置きってモンがねえな……また不法侵入だし」岡崎 契
「えー? 今日はちゃんとドアから入ってきたじゃない。ノックもしたよ」柳 愛時
「当たり前のことを自慢するな。正面からだろうが強行突破で入って来ている時点で同じだ。というか、お前……星野にまでちょっかいかけてるのか?」
岡崎 契
「ふふ、柳さんは心配性だね。安心して。同じ警察の仲間として仲良くしてるだけだよ」榎本峰雄
「まったく安心できねえよ。……ん? つーか本来、星野が警察ってことも一応は黙ってなきゃいけないんじゃなかったか?
こいつに探られると色々面倒って話で」
岡崎 契
「あ、そこはゲーム本編と同じ設定だと面倒だからスル―して」柳 愛時
「本編とか言うな。……まあ、岡崎に隠そうとしたところで無意味なのはわかっていたが」岡崎 契
「今日はね、キミたちが知らない彼女の姿を見せてあげようと思って来たんだ」榎本峰雄
「俺たちが知らない、あいつの姿、って……。お、岡崎……! ままままさかお前、あいつに不埒なこと――」
岡崎 契
「え? キミたちは警察を辞めてるから、彼女が普段どうやって過ごしてるか知らないでしょ?そういう日常的な部分も知りたいんじゃないかなあって思って。
なによりこの企画、調査報告会って名目だしね」
榎本峰雄
「あ、な、なんだ……そういう意味かよ……」岡崎 契
「? どういう意味だと思ったの?」榎本峰雄
「そりゃ、他の奴には見せない姿っつったら、こう……いやいやなんでもねえよ!!」柳 愛時
「岡崎。俺たちは必要以上に詮索するつもりはない。彼女もプライベートを覗かれるのは嫌がるだろう」
岡崎 契
「でも、彼女のことも調べてはいるんでしょ?」柳 愛時
「…………」岡崎 契
「状況が状況だからね、それは当然だと思う。でも、基本的なデータだけじゃわからないこともあるし、人となりを知るのは大事なんじゃないかな」
柳 愛時
「……そもそも、星野と俺たちは捜査上での協力関係だ。交友関係や生活サイクルを知る必要があれば拾うが、必要性があるかどうかを決めるのはお前じゃない」
岡崎 契
「ふふ、むしろ『知りたくない』って言ってるように聞こえるけどな」柳 愛時
「……俺のことまで詮索するな」榎本峰雄
「お、おーい……なんか空気がピリピリしてんだけど……」岡崎 契
「ごめんごめん。じゃあ、普段の仕事風景を見てみようか」――12月某日、新宿署 地域課
星野市香
「お疲れ様です、望田先輩。報告書のチェックお願いできますか?」望田政信
「ああ。……ん? 星野、お前……ずいぶん疲れた顔してるな」星野市香
「え? あ……ここのところ、少し寝不足で」望田政信
「こう立て続けに事件が起こっちゃなあ。だが警察官たるもの、身体が資本だぞ。無理はするなよ」星野市香
「ありがとうございます。体力には自信があるので、大丈夫です」望田政信
「そこは心配してないが……最近はよく溜息ついてるだろ。ストレス溜めこみすぎてるんじゃないか?」
星野市香
「いえ、その……プライベートでちょっと。顔に出るなんてダメですね。すみません、ご心配おかけして」
望田政信
「たまには飲みにでも連れて行ってやりたいところなんだがなあ……。不甲斐ない上司ですまん」
星野市香
「そんな、気にしないでください……!先輩だって連日対応に追われてますし……」
望田政信
「あ、そうだ。冴木でも誘ったらどうだ。あいつなら愚痴でもなんでも聞いてくれるだろ。……酔っぱらうと途中から自分の愚痴大会になるが」
星野市香
「ふふ、そうですね。でも冴木君も忙しいみたいで――」冴木弓弦
「ほーしのっ。俺がどうしたって?」星野市香
「冴木君!」望田政信
「噂をすればだな。冴木、サボりか?」冴木弓弦
「違いますよ。報告書出しに来たんです。で、なんか俺の話してませんでした?……もしかして俺が最近太ったとか悪口?」
星野市香
「違うけど、冴木君が最近ちょっと太ったのは事実だよね」冴木弓弦
「ぐ……っ、ハッキリ言うなよ。これでも気にしてんだぞ!」望田政信
「星野がやけに疲れた顔しててな。最近は息抜きできる余裕もないし……。冴木と飲みにでも行ったらどうだって話してたんだ」
冴木弓弦
「おっ、そんなことなら大歓迎!水臭いなあ、星野。いつでも付き合ってやるのに」星野市香
「ありがとう。冴木君も色んな現場に駆り出されてるみたいだから、疲れてるかなって……」冴木弓弦
「疲れてても酒は別腹っつーか、お前と飲むのは俺もストレス解消になるしな。変な遠慮とかすんなよ」星野市香
「うん。……あ、でも飲みすぎちゃダメだよ。冴木君、この前もお酒で失敗したんでしょ?」冴木弓弦
「うっ……それは気を付けます……」望田政信
「冴木の飲み会でのネタはたくさんあるからなあ。署の前の『ふぁん君』持ち帰って怒られたこともあったよな」
星野市香
「ふぁん君って……警察のマスコットキャラじゃないですか。玄関のところにある、あの大きなやつですよね?」
冴木弓弦
「ああ……朝起きたらベッドの隣に寝てたんだよ……。この世の終わりかと思った……」
望田政信
「自業自得だな。というか、警察官のすることじゃないぞ」冴木弓弦
「反省してます……。起き抜けで隣に誰かいるとか、一瞬だけ『まさか通りすがりの美人と一夜の過ちを……!?』とか思ったんだけどな……」
星野市香
「あはは、今度は飲みすぎないようにしようね」――12月某日、探偵事務所内
岡崎 契
「職場では上司や同僚と和気藹々やってるみたいだね」榎本峰雄
「ちょっと待て、これどうやって映像再現したんだ!? 盗撮か!?」岡崎 契
「あくまでイメージ映像だよ? そこ気にしたら進まないじゃない」柳 愛時
「まあ……周囲の環境はいいようで何よりだな。今の星野は精神的にも辛い状況だ。心を許せる上司や同僚がいるなら、少しは気も休まるだろう」
榎本峰雄
「そういや、あの冴木って奴。俺も前に会ったことあるけど、すげー仲良さそうだったな」岡崎 契
「あれ、峰雄君。なんだか怒ってる?」榎本峰雄
「は!? なんで俺が怒らなきゃなんねえんだよ。べつにあいつが誰と仲良くしようと関係ねえし……。この状況で飲み会とか呑気だなって思っただけ!」
柳 愛時
「酒くらい、俺たちだって飲むだろう。そこは責めてやるな」岡崎 契
「違うよ、柳さん。峰雄君はちょっとジェラシーなだけ。オレも望田さんに会ったことあるけど、彼女の相棒って感じで気を許しあってて、羨ましかったなあ」
榎本峰雄
「羨ましいって……お前、あいつと仲良くなりたいわけ?」岡崎 契
「うん、もちろん。市香ちゃんのこともっと知りたいし、仲良くなりたいよ?」榎本峰雄
「ふ、ふーん……」柳 愛時
「……彼女が嫌がるようなことはするなよ」岡崎 契
「はーい。お父さんに怒られるようなことはしません」柳 愛時
「どうだかな……」――12月某日、探偵事務所内
岡崎 契
「お邪魔しまーす。あれ、柳さんと峰雄君は?」白石景之
「サラッと入ってきたねえ……。2人なら出かけたよ。柳君が現場を見に行くって言ってたから、榎本君も連れて行ったんじゃない?」
岡崎 契
「峰雄君が現場に行くなんて珍しいね。いつもはここでゴロゴロしてるか、散歩に出ても事件に関わるところは近づかないのに」
白石景之
「……へえ。君ってここのメンバーのこと、本当によく知ってるね。後でもつけてるのかな?」岡崎 契
「ふふ、そこは企業秘密です」笹塚 尊
「で、お前は何しに来たんだ。差し入れ置いて出てけ」岡崎 契
「つれないなあ。尊君と白石さんだって、市香ちゃんのことなら気になるでしょ?」笹塚 尊
「は? 興味ねえ」白石景之
「? “市香ちゃん”って誰のこと?」岡崎 契
「ええ……? 2人とも、仮にも攻略対象なのにそれでいいの?」笹塚 尊
「バカ猫のことならある程度調べた。アドニスに関わるネタなら聞くけど」岡崎 契
「そういうのじゃなくって、普段の彼女のことだよ。キミたちは特に彼女に対して冷たいし……仲良くなるためには必要でしょ?」
笹塚 尊
「必要ない。馴れ合って事件が解決すんのか?」白石景之
「あ、バカ猫ってことはあの首輪をつけられた子のことか。うん、それなら興味あるよ。いつ死ぬかもわからない状況ってどんな気分なのか、じっくり聞いてみたいんだよね」
岡崎 契
「うーん……。柳さんじゃないけど、この2人に市香ちゃんのことを任せるのは不安があるなあ」笹塚 尊
「お前にだけは言われたくねえけどな。で、さっさと本題に入れよ」岡崎 契
「じゃあ、今回はこれを見てもらおうかな」――12月某日、星野家
星野市香
「ただいま。……あれ、香月以外の靴……。瀬良君かな」瀬良あきと
「あ、お姉さん。こんばんは、お邪魔してます」星野市香
「瀬良君、こんばんは。香月は?」瀬良あきと
「今コンビニ行ってて……すぐ帰ってくると思うんですけど」星野市香
「……そう。ねえ、瀬良君。その……最近の香月はどう?」瀬良あきと
「え?」星野市香
「学校でどう過ごしてるかとか……。新宿がこんなことになって、事件も起きてるし危ないでしょ?休校になってるところも多いし……私には、あまりそういう話してくれないから」
瀬良あきと
「……あいつ、やっぱり家だとあまり話さないんですね。 普段はすごく明るいですよ。やりたいこと見つけて楽しそうで……。
でも、確かに危険なことにはちょっと鈍いかもしれません。今は趣味に夢中になっちゃってる感じで」
星野市香
「そっか……。瀬良君に迷惑かけてない?」瀬良あきと
「それはないです。むしろ俺のほうが支えられてるっていうか……。友達想いですごくいい奴ですから」
星野市香
「ならよかった。姉なのにこんなこと言うのも情けないけど、香月のことよろしくね」瀬良あきと
「はい。……あ、でも。お姉さんも仕事の合間でいいんで、気にかけてあげてください。あいつは反抗的なこと言うかもしれないけど……家族に気にかけてもらって、嫌な人間なんていません」
星野市香
「うん。あまり構うと嫌がられるから、ほどほどにするけど。話す時間作れるように頑張るよ」
星野香月
「……玄関先でなにやってんの」星野市香
「香月! おかえり」星野香月
「……あきとに変なこと言ってないだろうな」星野市香
「変なことって……雑談してただけだよ。今日、瀬良君は泊まってくの? 親御さんにはちゃんと――」
星野香月
「あきと、俺の部屋行こうぜ」瀬良あきと
「すみません、お姉さん。親には伝えてます。泊まっても大丈夫ですか?」星野市香
「もちろん大丈夫だけど……」星野香月
「うるさくしなきゃ文句ねえだろ。余計な口出すなよ」瀬良あきと
「香月。そんな言い方しなくたっていいだろ。お姉さんは心配してくれてるだけで――」
星野香月
「心配? 自分に迷惑かかんねえかの心配だろ。俺、先に部屋行ってるから」星野市香
「…………」瀬良あきと
「……なんか、すみません」星野市香
「瀬良君が謝ることじゃないよ。ゆっくりしていってね。明日の朝ご飯、はりきって作るから」
瀬良あきと
「わあ、ありがとうございます。お姉さんが作る料理、大好きなんで嬉しいです」
星野市香
「こちらこそ、いつも美味しそうに食べてくれて嬉しいよ。……香月は何作っても感想とか言ってくれないし」
瀬良あきと
「……大丈夫です。今なら、まだ間に合いますから」星野市香
「え?」瀬良あきと
「俺からもそれとなく言っておきますね。あいつは素直になれないだけだから、仲良く話せる日が来るように願ってます」
星野市香
「……ありがとう、瀬良君」――12月某日、探偵事務所内
白石景之
「これ、どこから入手した映像なの?」岡崎 契
「だから、イメージ映像だってば。ちなみに本編ではこんな方法で知ったりしないからね?」笹塚 尊
「……岡崎にしてはいいネタ持ってきたな」岡崎 契
「え? 何か尊君が気になる情報あった?」笹塚 尊
「まあな。しばらく集中するから。邪魔すんなよ」白石景之
「おや、PCに向かっちゃったね。こうなると話しかけても無駄だと思うよ」岡崎 契
「尊くーん。ドーナツここに置いとくね」白石景之
「……それにしても、弟君がいたんだ。笹塚君が気になったのもこれかな?彼女の弱味になりそうな部分だからね」
岡崎 契
「白石さん。これは彼女の弱点を見つけるための企画じゃないよ?」白石景之
「いかに相手が触れられたくない部分を抉るかで本音を引き出すことができるからね。べつに今のところ使う予定はないけど、知っておいて損はないかな」
岡崎 契
「うん、わかった。白石さんの半径50メートルくらいは近づかないよう彼女に言っておくね」おわり
――12月某日、探偵事務所内
榎本峰雄
「柳先輩は出かけちまったし、尊も家に引きこもってるし……暇だ」榎本峰雄
(X-Day事件の捜査、か……。――うやむやにしてた現実が、星野と会った夜から動き出した。
ここにいる限り俺も動かなきゃいけない。わかってる、けど……)
榎本峰雄
(“あの事件”を調べたら、俺はまた……)榎本峰雄
「……そういや、夜に星野がここ来るんだっけか。柳先輩が戻ったら散歩にでも出かけっかな……。
いやいや、違うぞ。べつに逃げるつもりじゃなくて――」
白石景之
「彼女と目を合わせるとドキドキしちゃうから、かな?」榎本峰雄
「そうそう……って、ひょおぉぉぉ!! 白石さん!?いつからいたんですか! 岡崎じゃないんだからやめてくださいよ!」
白石景之
「岡崎君と一緒にされるのは心外だなあ。君が独り言に夢中で気付かなかっただけじゃない。
そんなに隙だらけじゃスパイとかに向いてないね」
榎本峰雄
「スパイ目指してるわけでもないんで……。つか、さっきのなんですか。あいつと顔合わせるとドキドキするとか……。
俺はそんな理由であいつのこと避けてるわけじゃないッスよ」
白石景之
「これまでは個々で捜査していて互いの事情に踏み込まなかった。だから君はのらりくらり誤魔化してここでゴロゴロニートでいられた。
でも彼女が現れたことで、団結して捜査に本腰入れる風向きになってる。
そうすると君は事件に向き合わなきゃいけないから逃げてるわけでしょ?」
榎本峰雄
「…………相変わらず、すげえ観察眼なんでぐうの音も出ねえけどさ。そこまでいくとマジで心が読めるのかって疑いたくなりますよ」
白石景之
「そんな難しい芸当してないよ。分析も何もない。君を知ってる人間なら誰でもわかることだと思うけどな」
榎本峰雄
「へいへい、俺はわかりやすいバカですよーっと。で、白石さんは俺をからかいに来たんですか?」
白石景之
「それも悪くないけど、そこまで暇じゃなくてね。一応は仕事で来たんだ」
榎本峰雄
「なら、柳先輩がいるときのほうが……」白石景之
「いや、君がいちばん適任だと思うよ」榎本峰雄
「白石さんの仕事に関わることで、俺が適任……?」白石景之
「じつはね、榎本君。俺は……」榎本峰雄
(…………ごくり)白石景之
「未来を予知できるようになっちゃったんだ」榎本峰雄
「…………はい????」白石景之
「俺は統計学と経験に基づいたプロファイリングが専門だから、これは未知の領域でね。非科学的なものは信じないけど、実際に未来が視えるんだから仕方ないよね?」
榎本峰雄
「えーと、つまり……やっぱり俺をからかいに来たんですよね?」白石景之
「うん、そうとも言うね」榎本峰雄
「せめて否定してください!!」白石景之
「まあまあ、あながち嘘ってわけでもないんだよ。俺たちに課せられた『調査報告』企画の集大成として、『彼女』のことをどう思ってるか調査しなきゃいけないんだ」
榎本峰雄
「はあ……??」白石景之
「でも、今の印象を聞いたところで予想できるしつまらないでしょ?」榎本峰雄
「は、はあ……」白石景之
「だから、もし君たちが彼女と特別な関係になったらどんな風に変わるのか興味あるなあって思ってたんだ。で、どういうわけか俺宛に未来の映像が見られる機械が送られてきたんだよね」
榎本峰雄
「いやいやいや某国民的猫型ロボットもビックリだし、何をどうしたらそうなんのかサッパリわかんねえ。てかそんなんアリなの? この作品ってファンタジーじゃねえよな?」
白石景之
「岡崎君も言ってたけど、企画だからこそなんでもアリなんだって。ちなみに再現映像は本編そのままのシーンってわけじゃないみたい。
ってことで、さっそくこの機械を試してみようか」
榎本峰雄
「あー……これ、拒否権ないパターンだ……」――どこかの12月某日 居酒屋
榎本峰雄
「なんか、悪ぃな。せっかく2人きりだっつーのに、色気のない場所でよ」星野市香
「何言ってるんですか。私は峰雄さんといられるなら、どこでも楽しいですよ」榎本峰雄
「っお、お前なあ……! そういうこと、サラッと言うなよ! 心臓に悪いだろーが」星野市香
「? 峰雄さんはべつの場所がよかったですか?」榎本峰雄
「え、あ、いや……。そりゃ、前までは恋人同士っつったらオシャレな店で夜景見て、とか思ってたけど……。俺も、お前と一緒にいられるだけで幸せっつーか……。
正直……今でも夢なんじゃねえかって思ったりするぜ」
星野市香
「……っ、峰雄さんこそ。そうやっていきなり素直になるのやめてください。……私も心臓に悪い、ので」
榎本峰雄
「……じゃあ、お互い様ってことだな」星野市香
「ふふ、そうですね。お互い様です」榎本峰雄
「ちょお! ストップ! ストーーーーップ!!なんだこれ!? どっからツッコんでいいのかわかんねえ!」
白石景之
「ふぅん。女性と1対1になるだけであんなにドキマギしてた君が、こんな風になるのかあ。これは興味深いね」
榎本峰雄
「え、これマジでこんな展開になるんですか?そもそも俺とあいつがそんな関係に……!?!?
いや落ち着け俺、これは白石さんが俺を騙そうとして……。
てか『峰雄さん』とか呼ばれてるんだけど、夢だろこれ!」
白石景之
「あ、榎本君の頭がオーバーヒートしちゃった。これ以上は刺激が強すぎるかな」
榎本峰雄
「こ、これより刺激が強いもんがあるのかよ……?」白石景之
「じゃあ、せっかくだから他の人のも見てみる?」榎本峰雄
「他の人って、柳先輩とか尊とか……まさか白石さんのも?」白石景之
「俺も自分のを見てみたんだけど、この機械って過程まで全部見れるわけじゃなくて場面を切り取るだけみたいだから、意味がわからなかったんだよね。
どうして俺が彼女とあんな会話してるのか、不可解でさ。
自分が喋ってる言葉だとは到底思えないし」
榎本峰雄
「へえええ……。怖いもの見たさで興味あるッス」白石景之
「なら、俺のを見てみようか」――どこかの12月某日 白石の部屋
星野市香
「白石さん。先日お借りした服、返しますね。ありがとうございました」白石景之
「君って律儀だなあ。わざわざ洗濯しなくたっていいのに。あ、いい香り。なんだろうこれ……花の香り?」
星野市香
「たぶん洗剤の香りですね。あ、気になりますか?ついいつもの癖で入れちゃったんですけど……」
白石景之
「ううん。嫌いじゃないよ。君が帰ってからなんだか物足りない気分だったから、君のこと思い出せて悪くない」
星野市香
「し、白石さん……」白石景之
「ところで、今日は家に帰っちゃうの?」星野市香
「え……それは、明日も仕事がありますし」白石景之
「……帰っちゃうの?」星野市香
「う……。白石さんは……その、私にいてほしい、んですか?」白石景之
「…………うん。なんでだろう。俺、君に帰ってほしくないみたい」榎本峰雄
「………………」白石景之
「どう?」榎本峰雄
「………正直、気色悪いッス」白石景之
「あはは。それは俺も思った」榎本峰雄
「つか、この会話の流れ……白石さんの部屋にあいつが泊まった、ってことですか?それだけはありえないッスよね? こんな上から下まで怪しい人間の家に泊まるとか……」
白石景之
「そこも不思議なんだよね。俺、自分の家に他人を招いたことないし。やっぱりこの機械、壊れてるのかな。それとも――あ、わかった。
俺のことだから、彼女を騙そうとしてるってのは十分ありえるかな」
榎本峰雄
「それ自分で言っちゃうのどうなんですか……。そういや首輪に興味持ってたし、演技ってことですかね?」
白石景之
「たぶんね。じゃないと説明つかないから。俺が誰かに心を許したり、ましてや誰かを必要とするとか……。
“絶対にありえない”んだよ」
榎本峰雄
「ふーん……。なんにしても文字だけならまだマシだけどさー。し、白石さんが微笑んで……たり、困った顔したり……??
ダメだ。ホラー映像にしか見えねえ」
白石景之
「ふふ、君は真に受けすぎるから面白いねえ。じゃあ、次。柳君と笹塚君のも見て――あれ?」
榎本峰雄
「うおっ! なんか機械から煙出てますけど!?」白石景之
「榎本君につられて、こっちもオーバーヒートしちゃったみたい。仕方ないね。どうせなら本人がいるところで公開したほうが面白いし、続きはまた今度にしよう」
榎本峰雄
「さすが嫌がらせの達人……。つか、俺も他の奴らの見てえ……!」おわり
――12月某日、探偵事務所前
柳 愛時
「またあいつは……場をかき回す天才だな」岡崎 契
「白石さんのこと? でもこの機械は面白いよね。未来の映像が視られるなんてすごいなあ」柳 愛時
「追い出したはずのお前がまたここにいることについては、もうツッコむ気力も起きないが。……その機械の存在をすんなり受け入れるお前もすごいと思うぞ」
笹塚 尊
「大体、将来的にバカ猫と親密になったからなんだってんだよ。峰雄ならともかく、俺たちがそれを知ったところで毒にも薬にもならねえ」
岡崎 契
「えーっと、つまり尊君は今それを知っても得がないってだけで、彼女とそういう関係になるなんてありえない、とは思ってないんだね」笹塚 尊
「年頃の男女が一緒にいて、相性合えばそういうこともあるんじゃねえの」柳 愛時
「笹塚は海外生活が長かったからか、そういうことに抵抗はなさそうだな」岡崎 契
「柳さんは恋愛とかに興味ないの?」柳 愛時
「興味がないというか……俺は、誰とも親密になるつもりがない。捜査上では良い関係を築きたいと思うが、プライベートを持ち込む必要はないだろう」
岡崎 契
「……頑なに予防線張るのは理由があるから、だよね」柳 愛時
「…………」岡崎 契
「ふふ、そんな怖い顔して睨まないでよ。とにかくさ、難しく考えずに試してみない?
まだ完全シロと断定するわけにはいかない彼女のことを知る、いい機会だと思ってさ」
笹塚 尊
「……マジでしつこいな、お前。やるなら勝手にやれ」岡崎 契
「やった。じゃあ、いちばん気になる柳さんからね」――どこかの12月某日 探偵事務所 屋上
星野市香
「やっぱり、ここにいたんですね」柳 愛時
「ああ、来てたのか。悪い、すぐ降りる」星野市香
「あ、いいんです。煙草、吸い終わってからで……。お邪魔じゃなければ、一緒にいてもいいですか?」
柳 愛時
「構わないが……前にも言っただろう、俺といても面白い話はしてやれないぞ」星野市香
「……柳さんって、ちょっと自虐的なところありますよね。私は特別なことなんて望んでません。こうして柳さんの近くにいられるだけで落ち着くんです」
柳 愛時
「っ、……なら、いいが」星野市香
「……困らせてしまいましたか?」柳 愛時
「いや……。ただ、お前に何かしてやりたいと思っても、気の利いたことが思いつかない。
それが……悔しいんだ」
星野市香
「十分、支えてもらってます。泣き言を言うのは全部終わってからって決めてますから、今は……少しだけ我侭を言わせてください」
柳 愛時
「……俺で叶えられるものなら」星野市香
「……隣に、いさせてください」柳 愛時
「……はあ」星野市香
「ご、ごめんなさい。……迷惑ですよね」柳 愛時
「違う。そんなこと、我侭って言わないだろ。俺はまだ踏ん切りがつかないし、お前にどう触れていいかもわからない。
それでも……お前を哀しませたくない」
星野市香
「柳さん……」柳 愛時
「……隣にいてくれ。今は、俺もそれだけでいい」岡崎 契
「……再現するところ、間違えたかも。なんだか、まだ距離がある感じだよね」笹塚 尊
「テロップ出てきたぞ。【ネタバレのため規制がかかっております】だと」岡崎 契
「そういえば、本編そのままのシーンじゃないんだっけ。にしても……やっぱり、柳さんは一筋縄じゃいかなそうだなあ。
普段は誰にでも優しいし親切なのに、市香ちゃんと個人的に仲良くなるのは避けてるみたい」
柳 愛時
「彼女のためにもそのほうがいいからな」岡崎 契
「ふぅん……。でもそれって、柳さんの思い込みだと思うけどな」柳 愛時
「どういう意味だ?」岡崎 契
「自分の幸せなんて、自分で決めるものだと思うからさ。柳さんの事情なんて関係なくて、彼女が一緒にいたいと思ったらきっとそれが正解なんだよ」
笹塚 尊
「岡崎にしちゃ、正論だな。相手のために引くことが必ずしも良いほうに転ぶとは限らねえ。……特に柳さんは慎重すぎてまだるっこしい」
柳 愛時
「……肝に銘じておく。俺の話はもういいだろう。岡崎、まだ見るのか?」笹塚 尊
「他人の恋愛事情なんか見て、何が面白いんだか……」岡崎 契
「でも、自分のだったらちょっと興味あるでしょ? じゃあ、次は尊君の見てみようか」――どこかの12月某日 尊の部屋
(キーボードを叩く音)
笹塚 尊
「…………」星野市香
「……もしかして、難航してますか?」笹塚 尊
「まあな。目立った進展はナシ。つか、お前いつまでいんだよ。用済んだら帰れ」星野市香
「笹塚さんが呼び付けたんじゃないですか。せっかく買い出ししてきたんですから、ちゃんと食べてくださいね」
笹塚 尊
「はいはい、どうも。人のことにかまけてねえで、お前もちゃんと食っとけよ。体重が気になるとか女子アピールいらねえから」
星野市香
「べつに体重気にするくらい、いいじゃないですか……!」笹塚 尊
「そこじゃねえよ。マジでまともに食ってねえだろお前」星野市香
「…………」笹塚 尊
「……またブサイクな顔してんぞ。なに、意味もなく不安になってんのか」星野市香
「いえ……役に立てない自分が、情けないだけです。すみません、ちゃんとします」笹塚 尊
「…………。【お前はそのままでいい】とか、どこぞの優しい奴みたいに言ってやらねえからな。
情けねえと思うなら努力しろ。自分に何ができるか必死で考えろ」
星野市香
「はい」笹塚 尊
「わかってんならいい。次またそんな顔してたら、もう1回アレやってやるからな」星野市香
「もう1回、って……。……っ!! え、あの……そもそも、【アレ】は……」笹塚 尊
「……今すぐやってほしいなら、リクエストに応えてやるけど?」星野市香
「いいですもう帰ります! 失礼しました!」岡崎 契
「……【アレ】ってなに?」笹塚 尊
「俺が知るかよ。ま、なんとなく想像つくけど」柳 愛時
「人のことは言えないが、笹塚もまだ距離がある状態だな。……またテロップが出てるぞ。【デレが出現するまでには時間がかかります】……らしい」
笹塚 尊
「普通に考えて、今は事件解決が第一だろ。バカ猫にかまけるほど余裕があるとは思えねえし、柳さんじゃないけど俺も捜査中に私情挟むのとか嫌いだから。
……おそらく、バカ猫もそこんとこは弁えてる」
岡崎 契
「この2人を相手にするのは大変そうだなあ……。白石さんも市香ちゃんのこといじめそうだし。
峰雄君は……この中じゃ普通っぽいから、きっと微笑ましい感じだよね」
柳 愛時
「他人を冷静に分析するのはいいが、お前はどうなんだ?前から星野と仲良くなりたいと言ってただろう」
岡崎 契
「うん。でも恋愛対象としてじゃないよ? そういうのよりもっと……ね、深い仲になりたいんだ」柳 愛時
「……まったく安心できない発言だな……」笹塚 尊
「こいつに振り回されると思うと、少しはバカ猫に同情する」岡崎 契
「じゃ、最後にオレのだね。自分でもまだ見てないから楽しみだな」――どこかの12月某日 星野家
岡崎 契
「……キミと一緒に住めたらいいのにな」星野市香
「えっ!? ど、どうしたんですか、いきなり」岡崎 契
「だって、そうしたら四六時中キミのこと守れるでしょ?離れてる間は、やっぱり心配なんだよね」
星野市香
「あ……そういう意味、ですね」岡崎 契
「どういう意味だと思った?」星野市香
「……岡崎さん、わかってて言ってませんか?」岡崎 契
「ふふ、でも冗談じゃないよ。本当だったらキミから少しも目を離したくない。オレの知らないところでキミに何かあったら……そんなの、絶対に嫌だから」
星野市香
「……ありがとうございます。いつも心配してくれて、すごく嬉しいです。でも……岡崎さんは少し、心配しすぎだと思います」
岡崎 契
「そうかなあ。……オレが心配するの、迷惑?」星野市香
「い、いえ、むしろありがたいんですけど……。私のためにそこまでしてもらって、いいのかなって」
岡崎 契
「遠慮なんかしないでよ。言ったでしょ。オレはオレのために、キミを守りたいんだ。
……キミは特別だから」
星野市香
「またそういう……勘違いしそうなこと、軽く言わないでください」岡崎 契
「ふふ、勘違いじゃないんだけどな。……ね、市香ちゃん。オレだけに、守らせてね」
星野市香
「……はい」榎本峰雄
「ちょーーーーっと待ったぁあああ!おい、岡崎! なんだこれ! いっちゃいちゃしてんじゃねえか!!」
笹塚 尊
「うるせえのが帰ってきやがった……」岡崎 契
「え、どうしたの峰雄君。これ、普段通りの会話だけど」榎本峰雄
「ふ、普段通り……!? いつもこんなピンク色の空気流れてんの!?」笹塚 尊
「またテロップ出てるな。【比較的、平和な頃です】……?」榎本峰雄
「……平和じゃなくなるとどうなるんだよ……」岡崎 契
「うーん……彼女に危険が迫るってことかな。それだけは避けなきゃいけないよね。うん、今まで以上に警戒しよう」
笹塚 尊
「バカ猫が危険なのは前からわかりきってるだろ。……お前との関係性が平和じゃなくなるってことじゃねえの」
榎本峰雄
「ぐぬぬ……許さん、許さんぞ岡崎。本編のレーティング上げるようなことだけはすんなよ!?」
岡崎 契
「ひどいなあ。オレは誰より彼女のこと守りたいって思ってるのに」柳 愛時
「はあ……騒がしくなったな」白石景之
「お疲れさま、柳君。もう君たちの未来ってやつ見ちゃったの? 俺も見たかったなあ。ねえ、君も彼女に【今夜は帰さない】とか言っちゃうタイプなのかな?」
柳 愛時
「うるさい。……ん? 【君も】って……お前はそんなことを言ったのか?」白石景之
「うーん。まあ、似たようなことは言ってたね」柳 愛時
「……星野には身辺注意を言い聞かせておかないとな」白石景之
「嫌だなあ、人を不審者みたいに。安心して、彼女にそういう気はまったく起きないから。
あ、犯罪を起こす心配してるならそこも大丈夫。自分の部屋で犯行なんてアシのつくことしないからね」
柳 愛時
「話が飛躍しすぎだ。まったく……ん?」白石景之
「今、ノックの音が聞こえなかった? 誰か来たかな」柳 愛時
「ああ、今日は近況を報告する予定だったからな。こういうふざけた名目じゃなく……事件のことで」
白石景之
「つまり、やっと本筋に戻るってことだね。まあまあ楽しめたけど、そっちの謎も気になるからいい頃合いか」
星野市香
「お邪魔します。あ……今日はみなさん揃ってるんですね」柳 愛時
「ああ。好きなところに座ってくれ。白石、コーヒー頼む」白石景之
「はいはい。俺を使うのは君くらいのものだよ」柳 愛時
「じゃ、さっそくだが……始めるか。“X-Day事件”の真実とやらを知るために――星野。お前の話を聞かせてほしい」
おわり