物語

これは
辿り着いていたかもしれない
もう一つの話の物語


【白】の少女が舞うと夜が遠離る。

自らを「オランピア」と名乗り、
人形のように微笑むこともなく、
人形のように舞い續ける彼女を
人々は敬い、恐れていた。

命よりも色を重んじる天供島で、
彼女はたった一人しか存在しない色を持つ。

稀少な【白】を途絶えさせないために
ここで18歳を迎えた彼女は交配相手を捜さねばならない。

『天女島で産まれた貴女は特別なのです』
『この島のどんな色の男でも自由に選ぶことができます』

過去の出来事から外界との交流を拒んでいた彼女は
亡き母の言葉を信じて一歩を踏み出す。

本当の自分を愛してくれる者を見つけるために。
自分が求める魂の半身と出逢うために――。

世界観

朽ちた葦の舟に乗り、その者は流れ着いた。
彼はそこに島を創り、【天供島(てんぐうとう)】と名付けた。

彼は次に【赤】【青】【黄】の色を創り、その色をさらに二つに分かち、男と女を創った。
彼の名は卑流呼(ひるこ)―――これが人の誕生である。

それから、幾何の時が過ぎ―――。

色とりどりの人々が住まう天供島では、
色別の格差社会が生まれていた。

色を保持する為に、組み合わせによる交配が義務づけられ、
生まれ持った色で階級が決まる。
原始の色に近いほど階級は高く、遠いほど低い。

ある日のこと、突如太陽の輝きに翳りが見え始めた。
徐々に長くなる夜が人々に恐怖を与える。

夜が全てを支配してから間もなく、
【黄】の長が一人の少女を舞台に立たせた。

少女は舞う。
すると―――不思議と太陽が輝きを取り戻し始めた。

以後、少女は舞い續けた。
太陽を輝かせる為に。

用語集

<天供島>てんぐうとう
海にポツンと浮かぶ資源が豊かな島で、卑流呼と【赤】【青】【黄】の長により統治されている。

天供島の中央には、「天三柱((あまのみはしら)」
と呼ぶ、大きな三柱鳥居がある。

天供島の隣には天女島と呼ぶ島がある。
周りは渦で囲まれており、舟で近づくことすらできない。
<交配>こうはい
赤と青を混ぜると紫が誕生するのと同じ原理で、色の組み合わせによって選ばれた相手と結ばれること。
階級が上位である程、色は濁らないとされている。
<色層>しきそう
生まれ持った色によって分けられた色別の階級。
同じ腹から生まれた者同士でも色が違えば、階級も異なる。
<オランピアの舞台>
島の東にある舞台上にて行われる晶を太陽へ捧げる為の舞踏のこと。
奉納された黄泉の者の晶が糧となり、太陽が輝いている。