- ケント
- 「別に私は……
君が他の男に頭を撫でられたからと言って嫉妬をするほど狭量ではない。
その程度、親子間でも友人間でも普通に行われるスキンシップの範囲内だ。
何も特別なことではない。
よって私も遠慮しない。
頭を撫でることに下心があるわけもないし、何を遠慮することがある?
君だってあいつにおとなしく撫でさせていたんだ、別に嫌ではあるまい?
…………
……すまない。
……だが君は。君はどうして黙ってあいつに頭を撫でさせているんだ。
あれは手の早い男だ。
頭を撫でているのがいつ肩になり腰になるかわからないんだぞ?
ああもちろん彼は私の友人だ。
私の交際相手をあえて奪いはすまい。
あれも単なる嫌がらせだろう。
わかっているとも。
だが彼にそのつもりがなくても、君の心が動かない保証はないんだ。
私が手を握ることすらためらっている内に、
君の心が彼に動いてしまうかもしれないと思うのは、狭量か?
女性の扱いに慣れていて、たやすく居心地のいい空間を作れるあいつに、
君を取られるのが怖いと思うのは
……それは、私の器が小さいからか?
…………
……私には、君の髪に触れるだけでも精一杯なんだ」