マルク「……っう……」
ラン「マルク!血が……!」
丁度石の尖ったところに膝が当たってしまったらしく真っ赤な血があっという間に伝い始める。
ラン「大変!早く消毒しないと!」
ティファレト「あれ?」
ラン「あ……っ!」
その時、私の中に以前、キオラ様に怪我を治癒していただいた時のことがよぎった。
ラン(ど、どうしよう……)
ラン(生死に関わるものじゃないけど、マルクは荷担ぎの手伝いをしてるわけだし、この怪我は……)
ティファレト「君、そのまま立ってて。すぐ終わるから」
ラン「え?」
ティファレトがマルクの前に膝をつく。
そして手を近付けて小さく何かを唱えると美しい金色の光が広がった。
マルク「うわぁ……───っ!!」
傷が、見る間に癒えてゆく。
ラン「ティファレト……」
マルク「魔法だ!魔法だ!僕、初めて見たよ!」
ティファレト「あと少しで傷が閉じるから」
そう答えたティファレトの表情が穏やかで優しくて、私はまた驚いた。
死にたいとか、この世界に飽きたとか───
そんなことを口にしているいつもの彼からは想像出来ない。
ティファレト「はい、治ったよ」
マルク「すごい!魔法で治してもらった!!」
ティファレト「別に大したことじゃないんだよ」
マルク「そんなことないよ!わぁ……魔法!」
マルクはすっかり興奮しきって、傷の癒えた膝とティファレトを何度も何度も見比べる。
ラン「どうも有難う、ティファレト」
ティファレト「どういたしまして」
ティファレト「……ちなみに、この子ってもしかして君の弟とかなの?最近この辺りでよく見るけど」
ラン「ううん、違うよ。マルクは東側から逃げて来た子なの」
ティファレト「……───ああ」
マルク「森で、お姉ちゃん達に助けてもらったんだ」
ティファレト「そう言うことだったのか」
ラン「でも、気持的には確かに弟みたいな感じだから……治してくれて本当に有難う」
ティファレト「君に感謝されるのはなかなか気分がいいな」
ラン「!」
ティファレト「はは、大丈夫だよ、治療費を君に請求しようとか思ってないから」
ティファレト「ただ、マルク」
ティファレト「僕はこの近くで占星術とか薬の調合とか、魔法治療でお金を得ている」
ティファレト「つまり、君のことを無料で治したのがばれたら 僕はこの先、お金を得ることが難しくなってしまう」
ティファレト「だからこれは三人の秘密に」
ティファレトが悪戯っぽく目を細めた後、マルクの頭にぽん、と手を置いた。
マルク「う、うん!分かった!分かりました!誰にも言いません!」
ティファレト「よし、いい子だ。僕はあそこの金と緑の看板の お店にいるから、また転んで怪我をしたらおいで」
ティファレト「ランの知り合いなら、君は特別だ」
ラン「……っ」
マルク「だ、大丈夫だよ!次からは転ばないように注意するから!」
ティファレト「そうだね、それが一番いい」
ティファレト「じゃぁ僕は用があるからもう行くよ、また」