テーブルの下で膝に置いた手が少し震えていた。
こんな状況は初めてだ。
こんなにも緊張するものだったなんて。
今の私は先生の目にどう見えているんだろう?
気になるけど、顔を上げることができなくて、
下を向いたまま言葉の続きを待った。
- 楠見清孝
- 「俺とお前は教師と生徒。
踏み越えてはならない壁がある」
- 橘川冴子
- (あれ……?
これって……)
急に体温が下がっていくようだった。
さっきまで胸の中で弾んでいた淡い期待は
一瞬で不安に変わる。
- 楠見清孝
- 「今日ではっきりさせようと思って誘ったんだ。
期待させて悪かったが、生徒とどうこうなるつもりは
一切ない」
- 楠見清孝
- 「勉強ももう見ないから安心しろ、
どうせいなくなる教師だ」
不安が現実になった。耐えられなくて
逃げ出しそうになったけど、立ち上がったところで
ぐっと堪えた。
ここで逃げたらまた今までと同じ。
逃げたくない。逃げちゃいけない。
堪えていたはずの涙がいつの間にか溢れ出していた。
止めようと思えば思うほど涙がこぼれて頬を伝う。
- 楠見清孝
- 「悪かったな」
そう言って、先生は止まらない私の涙をそっと
拭ってくれた。