振り返る前に、桐阪先輩は私の身体を
鈴太朗から攫うように引き寄せる。
そして、自分の背後に庇うと、
私を見たまま、明るく笑いかけてきた。
- 橘川冴子
- 「桐阪先輩……」
- 桐阪保
- 「やあ、さえちゃん。君を愛する男として、
黙って見ていられるシチュエーションじゃなかったから、邪魔させてもらったよ」
桐阪先輩はウィンクしてから、鈴太朗の方を見る。
鈴太朗が動揺している声が聞こえてきた。
- 檜渡鈴太朗
- 「あんた、何でここに……?」
- 桐阪保
- 「彼女に言い忘れたことがあって、
探してたら、保健室に入っていくの見たって、
教えてくれた子が居てね」
- 桐阪保
- 「まさか、君が彼女を困らせるようなことを
しているとは、思わなかった」
桐阪先輩は私たちを交互に見て、クスッと笑う。
- 桐阪保
- 「なるほど。この子の顔色と場所を見れば、
どういう手を使って、呼び出したのか、予想がつくよ」
- 桐阪保
- 「怪我でもしたフリして、呼び出したんでしょ?
騙し討ちみたいなことをして、元カレとして恥ずかしくないの?」
- 檜渡鈴太朗
- 「俺だって、本当はしたくなかった――って
何で、あんたに注意されなくちゃいけないんだ!?
俺が冴子さんと、どうしようが、関係ないだろ?」
- 桐阪保
- 「関係ならあるよ。
だって俺とさえちゃんは、付き合ってるんだ」
- 橘川冴子
- (え!?)
突然の交際宣言に、私は混乱する。
私たちは付き合っていないのに、
どういうつもりなんだろう?