- ???
- 「亜樹那」
- 橘川冴子
- (ん?)
呼びかける声に顔を上げると、
一人の男の子がこちらへ近付いてくる。
- 橘川冴子
- (わ……綺麗な子)
整った顔立ちに浮かぶ、優しげな微笑み。
ふわりと揺れる柔らかそうな髪の毛。
- 橘川冴子
- (おとぎ話の王子様が現実に現れたら、
こんな感じ……なのかも)
- 橘川冴子
- (……というか彼、
今『亜樹那』って言ったような……)
- 椎葉亜樹那
- 「和兎、どうした?」
- 樫永和兎
- 「どうしたじゃないよ。
これ、忘れていったからって
おばさんが僕に預けてくれたんだよ」
『和兎』と呼ばれた男の子は、
椎葉君へ一冊のノートを差し出す。
- 橘川冴子
- (あ、数学の……
そういえば、今日までの宿題があったっけ)
- 椎葉亜樹那
- 「ああ、サンキュ!
朝練で急いでたからすっかり忘れてた」
- 樫永和兎
- 「全く、そそっかしいんだから亜樹那は」
- 橘川冴子
- 「…………」
- 橘川冴子
- (どう見ても、椎葉君の友達だよね)
- 橘川冴子
- (普通……というか、
普通よりちゃんとしてそうな人だけど)