- 椎葉亜樹那
- 「冴子っ……!」
- 橘川冴子
- 「っ!?」
人ごみを掻き分けてやってきた亜樹那が、
脇目も振らずに私を抱き締める。
──それも、驚くほど強い力で。
- 橘川冴子
- 「あ、亜樹那……?」
さっき、男の子が道路に飛び出したのを見た時も、
すごくドキドキした。
助けなきゃ。
私がひかれるかもしれない。
でも助けなきゃって。
だって、誰かが死んでいたかもしれないのだ。
平常心でいられるはずがない。
- 橘川冴子
- (でも、今も……)
あの瞬間に負けないくらい、胸がドキドキして苦しい。
それも、全然違った風に。
- 椎葉亜樹那
- 「良かった……冴子……」
- 椎葉亜樹那
- 「店を……店を出たら騒ぎになってて……
女子高生が子供を助けたって聞いて。
俺は、お前が……」
- 橘川冴子
- (亜樹那……震えてる?)
- 椎葉亜樹那
- 「そうだ……どこも怪我は?」
- 橘川冴子
- 「う、うん。ちょっと転んじゃって、
擦りむいただけ」
- 椎葉亜樹那
- 「…………」