ポケットに入れっぱなしだった
ガムをカバンに仕舞い、
ラジオを取り出した。
- 橘川冴子
- (えっと……
どの辺まで聞いてたんだっけ?)
- ???
- 「……あ、ちょっと君!」
- 橘川冴子
- 「…………」
- ???
- 「ねえ、聞こえないのー? どいてくれないと――」
- 橘川冴子
- 「……ん?」
階段の踊り場に降り立った時、
誰かの声が聞こえた気がした。
片耳のヘッドホンを少し耳から浮かせ、
前方に目をやると――
- ???
- 「あっ、危ない!!」
- 橘川冴子
- 「!!」
- 橘川冴子
- 「痛っ……!」
大きな音と一緒に、
何かにぶつかった衝撃と痛みが身体に走る。
咄嗟につぶった目を静かに開いた。
- 橘川冴子
- 「あ……」
- ???
- 「…………」
目の前には、やたらに端正な顔。
謝らなければいけないと、
頭では分かっているのに――
まるで時が止まったように、彼から目が逸らせない。
- 橘川冴子
- (この人、確か……)
- ???
- 「……大丈夫?」
- 橘川冴子
- 「…………」
- ???
- 「おーい、もしもーし」
- 橘川冴子
- 「あ! は、はい!!」