- 橘川冴子
- 「……!!」
近くの茂みから、
何かが動き回る音がする。
- 橘川冴子
- 「よーし……」
思い切って背の高い草の間に足を踏み入れ、
ほとんど四つん這いになって姿を探す。
- 橘川冴子
- 「おーい……どこにいったのー?」
- ハリネズミ
- 「ピーッ」
- 橘川冴子
- (……あそこね)
音を頼りに茂みの出口へ近づいていき、
そして……
- 橘川冴子
- 「み~つけたっ!」
ばっと飛び出して、
ハリネズミを捕まえようとした。
けれど、私の目に飛び込んできたのは――
- ???
- 「……え?」
- 橘川冴子
- 「あ……」
- ???
- 「…………」
驚いた顔でこちらを見つめる、
男子生徒の姿がそこにあった。
変なところを見られて恥ずかしいとか、
こんなところに出くわして気まずいとか、
思うべきことは色々あったはずだ。
でも、その『色々』も忘れて、
彼の頬を伝う一筋の涙に釘付けになる。
- ???
- 「君は……」
- 橘川冴子
- 「あっ! えっ、えっと……!」
我に返るものの、すぐに言葉が出てこない。
すると、その男子生徒はシャツの袖口で、
頬を伝う涙を無造作に拭った。
- ???
- 「……もしかして君も新入生?」