キービジュアル
- 村上誉那
- 「おい!? 俺だよ! 誉那だよ! 怪しい奴じゃない!」
- 閻魔凜
- (貴方だから驚いているのよ……もう)
見れば彼は手にグラスの載ったお盆を携えている。
- 村上誉那
- 「獄卒殿、冷たいお飲み物は如何でしょうか」
- 閻魔凜
- 「……え」
開いた口が塞がらない。
この状況がよく飲み込めない。
この状況がよく飲み込めない。
- 村上誉那
- 「言っとくけど、毒なんか盛ってないからな。作ったのも写楽だし」
- 閻魔凜
- 「……?」
- 村上誉那
- 「疲れてるだろうし、湯上がりなんだから冷たいものを持っていって詫びろ、と」
- 閻魔凜
- (こういう時だけ妙に気を利かせないで)
- 村上誉那
- 「アイスコーヒー、ブラックで」
- 閻魔凜
- 「……ど、どうも有難う」
確かに喉は渇いていたし、氷がたっぷり浮かんだアイスコーヒーはとても美味しそうだ。
断る理由はない。
困惑しながら手を伸ばした───その時。
断る理由はない。
困惑しながら手を伸ばした───その時。
- 閻魔凜
- 「きゃ……!?」
- 村上誉那
- 「おい!?」
- 閻魔凜
- 「誉那、100年分くらい前払いで褒めるから頑張って」
- 村上誉那
- 「……!!??」
誉那が完全に硬直した。
失敗だったかも知れない。
でも、これが私なりの妥協案だったのだ。
幾ら何でも、いきなり抱きしめたら
失礼だし恥ずかしい。
失敗だったかも知れない。
でも、これが私なりの妥協案だったのだ。
幾ら何でも、いきなり抱きしめたら
失礼だし恥ずかしい。
- 閻魔凜
- 「有名でも、有名でなくても誉那は誉那でしょ」
- 村上誉那
- 「……えっ」
- 閻魔凜
- 「配信したければ、してみるのもいいと思う」
- 村上誉那
- 「ば……っ」
- 閻魔凜
- 「でもね、私は今のままでいいかなって思う」
- 閻魔凜
- 「泣いてる子に素敵なことを言ったり、300円のバスソルトで喜んでくれたり、八朔やわらび餅を美味しそうに食べたり……」
- 閻魔凜
- 「私はたかだか新米の獄卒」
- 閻魔凜
- 「父である閻魔大王と違い、貴方に名誉とか豪華な褒美を与えることは無理なの」
- 閻魔凜
- 「こんなふうに……励ますくらいしか」
- 村上誉那
- 「な、な……っ! なに言って……っ」
- 閻魔凜
- 「その……あのね」
- 閻魔凜
- 「今のままで……」
- 閻魔凜
- 「誉那は……───充分に格好いいわ」
- 村上誉那
- 「……!!」
- 宇賀菊之助
- 「慣れるまで俺が後ろから照準合わせるよ、それでコツつかんで」
- 閻魔凜
- 「いいわね、ご面倒おかけしますがよろしくお願いします」
- 閻魔凜
- 「あっ……!?」
- 宇賀菊之助
- 「え!?」
いきなり後ろにぴったりとくっつかれ、
その上───手まで重なっている。
その上───手まで重なっている。
- 宇賀菊之助
- 「ほら、そこの柱の陰! 撃て!」
- 閻魔凜
- 「!?」
背後から焦った声が聞こえ、
否応なしにゲームが始まる。
否応なしにゲームが始まる。
- 閻魔凜
- 「当たった!」
- 宇賀菊之助
- 「次そっちの右の壁!」
- 閻魔凜
- 「は、はい!」
- 閻魔凜
- 「また当たったわ!」
- 宇賀菊之助
- 「次は床の瓦礫から湧いてくる、銃口をそっちに向けて……今だ、撃て!」
- 閻魔凜
- 「よしっ! また仕留めたわ!」
- 宇賀菊之助
- 「うんうん、いい感じ! 次はドアのところだから」
- 閻魔凜
- 「あ! 出てきた!」
- 宇賀菊之助
- 「そいつだ! 殺れ! 最後は左の廊下入り口! いっけー!!」
- 宇賀菊之助
- 「お、俺……走るの速くない?」
- 閻魔凜
- 「も、問題ないです」
- 閻魔凜
- (どうして……こんなことに)
- 閻魔凜
- (いえ、私が強情を張ったせいかも……)
- 宇賀菊之助
- 「おい、タマも濡れてないか?」
- 魂緒
- 「大丈夫でございますにゃ」
- 閻魔凜
- (タマがいてくれて良かったような、更に恥ずかしいような……)
- 宇賀菊之助
- 「スーパーまではそう遠くないけど、転ばないように気をつけろよ、お嬢」
- 閻魔凜
- 「き、気をつけます」
- 閻魔凜
- (……菊之助は、全く平気みたいね)
- 閻魔凜
- (私だけが焦るのも馬鹿馬鹿しいし、とにかく走……)
- 宇賀菊之助
- 「お嬢の匂いが、俺と同じだ」
- 閻魔凜
- 「……!?」
危うく足がもつれるところだった。
こんな時にこんなことを言うのは慎んで欲しい。
こんな時にこんなことを言うのは慎んで欲しい。
- 閻魔大王
- 「というわけで首席卒業の優秀な新米獄卒には
タロ、アカ、ポチ、シロと共に人間道へ行ってもらう」
- 閻魔凜
- 「…………はい?」
- 閻魔大王
- 「五右衛門がタロ」
- 石川五右衛門
- 「…………」
- 閻魔大王
- 「誉那がアカ」
- 村上誉那
- 「…………」
- 閻魔大王
- 「写楽がシロ」
- 東洲斎写楽
- 「…………」
- 閻魔大王
- 「菊之助がポチ」
- 宇賀菊之助
- 「…………」
- 閻魔大王
- 「可愛いニックネームだろう? パパの下僕である証としてつけてあげたんだ」
- 閻魔凜
- (……『ニックネーム』)
- 閻魔凜
- (……四人とも、こんな名をつけられて可哀相に)
- 閻魔凜
- (幾ら罪人といえど、同情するわ)
- 閻魔凜
- (私は人の名前で呼ばれるだけ、『娘』扱いはされているのかも)
- 閻魔大王
- 「じゃ! 健闘を祈る!」
- 閻魔凜
- 「!?」
- 閻魔凜
- (そうだわ、彼等に同情している場合ではなくてまずは我が身よ)
- 閻魔大王
- 「マイスイート、彼等と共に人間道でレッツ・パーリィ!」
写楽はポケットから小さな瓶を取り出すと───
- 閻魔凜
- 「……!?」
- 東洲斎写楽
- 「少しはあんたを信頼したって証拠に、俺の日課を教えてやる」
- 東洲斎写楽
- 「湯上がりにこうして椿油を塗る。すると髪に艶が出る。江戸の嗜みだ」
- 閻魔凜
- 「そ、そうなの……?」
彼の指先が、私の髪を柔らかく揉む。
その艶めかしい感触に、肌がざわめく。
その艶めかしい感触に、肌がざわめく。
- 東洲斎写楽
- 「前から、なかなかいい髪してるとは思ってたんだ。梳いたら気持ちいいだろうな、と」
- 閻魔凜
- 「……っ」
享年19歳。
そんな言葉をかけられたのは初めてで、どうしていいか分からない。
そんな言葉をかけられたのは初めてで、どうしていいか分からない。
- プリステナビ
- 「いらっしゃいませ! まずはコインを入れてね!」
- 東洲斎写楽
- 「よし、400円な」
- 閻魔凜
- (私もついにプリントステッカーデビュー……まるで人間道の女の子みたい……)
- プリステナビ
- 「カラーはどれにする?」
- 東洲斎写楽
- 「お嬢、どれがいい?」
- 閻魔凜
- 「選んでいいの? ならこの……色」
- プリステナビ
- 「キュート、ポップ、アート、セクシー、レトロ、どれにする?」
- 閻魔凜
- 「そ、それはどういう意味?」
- 東洲斎写楽
- 「セクシーで」
- 閻魔凜
- 「ちょっと?」
- プリステナビ
- 「ではポーズしてね」
- 閻魔凜
- 「え、え? もう?」
- 東洲斎写楽
- 「落ち着いて、お客さん」
- プリステナビ
- 「撮影するよ! 3、2、1……」
- 閻魔凜
- 「……!?」
何が起こったのか、すぐに理解出来なかった。
私は憧れのプリントステッカーを撮っていたはずなのに。
私は憧れのプリントステッカーを撮っていたはずなのに。
- 東洲斎写楽
- 「どう? このままもう一枚撮る?」
- 閻魔凜
- (え!? 誰か井戸に飛び込もうとしてる? まさか自殺者!?)
- 閻魔凜
- 「駄目……───っ!!」
- JacK
- 「うわあああっ!!??」
- 閻魔凜
- 「考え直して下さい! 早まってはいけません!」
- JacK
- 「離してくれ、離してくれよ! 僕の自由にさせてくれ!」
- 閻魔凜
- 「離しません! とにかく考え直して!」
- JacK
- 「離せよ、離せったら!」
- 閻魔凜
- 「離しません! とにかく落ち着いて!」
- JacK
- 「僕は冷静だ!」
- 閻魔凜
- 「冷静な人が井戸になんか飛び込みません! とにかく駄目ったら駄目です!」
- JacK
- 「離せええ……───っ!!」
- 閻魔凜
- 「駄目ですったら! 自殺は等喚受苦処の可能性があるからやめた方がいいです!」
- JacK
- 「え? うわ!?」
- 閻魔凜
- 「きゃあ……───っ!?」
- JacK
- 「……あれ?」
- 閻魔凜
- 「……あら?」
井戸に足を滑らせたと思った彼が───
しっかりと目の前に立っていた。
しっかりと目の前に立っていた。
すぐ、目の前に長い睫毛があった。
彼の前髪が、私の頬に触れていた。
彼の前髪が、私の頬に触れていた。
- 閻魔凜
- (……綺麗な色の瞳)
愚かな私は、見とれてしまった。
近過ぎるその瞳が、余りにも謎めいていて。
近過ぎるその瞳が、余りにも謎めいていて。
- 閻魔凜
- (眼鏡がないと、こんなにも鮮やかな色なのね……)
- JacK
- 「怪我……なかった? 何処か打ったりは……?」
- 閻魔凜
- 「わ、私は大丈夫だけど……貴方のほうが……」
- 客
- 「何だ何だ? 男がいきなり女を押し倒したぞ!?」
- 女子高生
- 「ちょっと! 何処に目をつけてるの!? 今のはJacKがかばったんでしょ!」
- 閻魔凜
- (そうだった、ここは……!)
- 閻魔凜
- 「あ、あの……どいていただけますか……?」
- JacK
- 「わ!? ごめん!」
- 閻魔凜
- 「……あのね」
- 閻魔凜
- 「私も……以前に作ったことがあるかも知れない」
- 石川五右衛門
- 「……え」
- 閻魔凜
- 「さっきスーパーでふと焼き味噌の作り方を思い出したの」
- 石川五右衛門
- 「……っ」
- 閻魔凜
- 「だからきっと……───私も作っていたのよ」
- 石川五右衛門
- 「……っ」
- 閻魔凜
- 「五右衛門!?」
まさか───泣くなんて。
予想外の涙に、私は呆然としてしまう。
予想外の涙に、私は呆然としてしまう。
- 石川五右衛門
- 「はは……そうか……あんたも……作ってたか」
- 閻魔凜
- 「…………」
どうして泣くの、と。
そう問えないくらい、
彼の表情は複雑だった。
嬉しさや苦しさだけでなく、
憎しみのようなものさえ感じる。
そう問えないくらい、
彼の表情は複雑だった。
嬉しさや苦しさだけでなく、
憎しみのようなものさえ感じる。
- 石川五右衛門
- 「だからこんなに……───旨いんだな」
苛つく。
彼のこの涙の理由が分からない。
私を置いてけぼりにして、
勝手に泣かないで欲しい。
彼のこの涙の理由が分からない。
私を置いてけぼりにして、
勝手に泣かないで欲しい。
- 閻魔凜
- 「そんなに……美味しい?」
- 石川五右衛門
- 「ああ」
- 石川五右衛門
- 「言っておくけど、この花は盗んで来たわけじゃないからな」
- 石川五右衛門
- 「眺めてたら品のいい婆様が出てきて、『沈丁花が好きなのか』と」
- 石川五右衛門
- 「女に贈りたいから少し分けてくれと言ったら、『この篭に』に……と」
- 宇賀菊之助
- 「次こそは……───勝つに決まってるだろ」
- 閻魔凜
- 「……っ」
菊之助は、私の顔を見ようとしなかった。
横では五右衛門と写楽がにやにやと笑っている。
横では五右衛門と写楽がにやにやと笑っている。
- 閻魔凜
- 「な、なら……誉那は?」
- 村上誉那
- 「……!」
- 東洲斎写楽
- 「おいアカ! 今ここで侠気を見せなくてどうする」
写楽がやけに楽しげに、誉那を小突く。
- 村上誉那
- 「っせぇ! その名前で呼ぶな!
俺はてめぇの飼い犬じゃない!」
- 石川五右衛門
- 「全くだ」
- 村上誉那
- 「お、俺は……女の助けなんて要らない」
- 村上誉那
- 「もう二度と……助けられるようなヘマはしない」
- 閻魔凜
- 「誉那!」
- 村上誉那
- 「嬉しそうな顔するな! 別にあんたのために頑張るわけじゃない!」
- 閻魔凜
- 「それはもちろん分かってる。
残ってくれるだけで嬉しいから」
- 村上誉那
- 「本当に、本当に! あんたのためじゃないから!
負けっ放しで引き下がりたくないだけだから!」
- 閻魔凜
- 「ええ、そうよね。私もそう思う」
- 村上誉那
- 「……くそっ」
- 東洲斎写楽
- 「……ガキばっか」
- 閻魔凜
- 「写楽? 何か言った?」
- 東洲斎写楽
- 「一番星が見えた、って言いましたー」
- 宇賀菊之助
- 「何処!? あ、本当だ! 綺麗に光ってるな!」
- 閻魔凜
- 「見つけた! あそこね!」
- 石川五右衛門
- 「三瀬川でしたら、この俺が貴女を背負いましょうか」
- 閻魔凜
- 「誰!?」
私は素早く鞭を取り出し───
そして振り返り際、情けないことに濡れた石を踏みつけ
大きく滑った。
そして振り返り際、情けないことに濡れた石を踏みつけ
大きく滑った。
- 閻魔凜
- 「あっ……!」
- 石川五右衛門
- 「幾ら俺が罪人でも、いきなり鞭で叩かれるのは堪忍です」
- 閻魔凜
- 「……!?」
- 石川五右衛門
- 「せっかく背負って差し上げようと声をかけたのに、俺の背中に興味はございませんか」
- 閻魔凜
- 「な、何を言ってるの!? 離しなさい、無礼者!
この私を誰だと思っているのですか!?」
- 石川五右衛門
- 「もちろん存じ上げておりますよ、閻魔大王のご息女でしょう」
- 閻魔凜
- 「し、知っているなら……っ」
- 石川五右衛門
- 「でも足を滑らせた貴女を支えているのは俺の手で、離したら三途の川に顔から突っ込みますよ」
- 閻魔凜
- 「く……!」
- 石川五右衛門
- 「まずはゆっくり体勢をととのえるべきかと」
- 閻魔凜
- (この男……)
- 石川五右衛門
- 「落ち着いて、真っ直ぐに立って下さい」
ゆっくり、ゆっくりと肩を押されて───
- 軟派な男
- 「お! どうしたの? キレイなおねーさん」
- 閻魔凜
- 「…………」
- 軟派な男
- 「最近このへんは昼でも物騒だからね、独りで歩かない方がいいよ」
- 閻魔凜
- 「ご忠告有難うございます、では失礼」
- 軟派な男
- 「まぁまぁそう言わずに! 安心安全なところに行こうよ」
- 閻魔凜
- (こういう男が泣かせたんだわ、きっと)
- 閻魔凜
- (なら、私が直々にお父様の前まで引っ張ってあげる)
- 閻魔凜
- 「あらあら、安心安全なところって何処かしら?」
- 軟派な男
- 「おっ! 話が早いね、おねーさん! この近くにいいホテルがあるんだ、そこでどう?」
- 閻魔凜
- 「私、もっと素敵なところを知っています。もう絶対に貴方が泣いて喜ぶこと間違いなし」
- 軟派な男
- 「ええっ!? おねーさん話早過ぎない? もしかして後ろにヤバい男とかいる?」
- 閻魔凜
- 「いやですわ、そんなものいるわけな……」
- 村上誉那
- 「わしの女房に何してくれとんじゃ、われ」
- 閻魔凜
- 「……!!!???」
- 軟派な男
- 「ひっ!?」
- 村上誉那
- 「簀巻きにして海に沈めてやるから、その間抜けな面ちょお貸せや」
- 軟派な男
- 「い、いえ俺は……っ」
- 村上誉那
- 「名前は?」
- 軟派な男
- 「くそ……っ、やっぱり後ろに男がいやがったか……っ」
- 村上誉那
- 「何をぶつぶつ独り言ほざいてやがる、ほら名乗れ」
- 軟派な男
- 「な、名乗る程のものでは……あの、そちらの兄貴はどちらの組の方ですか?」
- 軟派な男
- 「俺は決してシマを荒らすつもりではなかったので、どうぞお許しいただければと……」
- 村上誉那
- 「離れろ」
- 軟派な男
- 「はい?」
- 村上誉那
- 「離れろっつってんだよ!
目障りだからさっさと消えろ! 次に会ったら本当に沈めるぞ、ボケ!」
- 閻魔凜
- 「おはようござ……」
- 閻魔凜
- 「……!?」
- 東洲斎写楽
- 「おはよう、入り口の辺りまだ少し濡れてるから滑らないように気をつけろ」
- 閻魔凜
- 「は、はい……」
- 閻魔凜
- 「……ところで、何してるの? そんな格好で?」
- 東洲斎写楽
- 「これが海で泳いでるように見えるか? 昨日の馬鹿達の後始末してるんだよ」
- 東洲斎写楽
- 「あいつら、掃除の仕方がぜんっぜんなってねぇ! 一から仕込まないと!」
- 閻魔凜
- (……綺麗好きなのは薄々分かっていたけど、ここまでとは)
- 閻魔凜
- 「……お手伝い、いたしましょうか?」
- 東洲斎写楽
- 「ん~……まぁ、あいつらよかはマシだろう。悪いけど付き合ってくれるか」
- 閻魔凜
- 「私は何処をやればいい?」
- 東洲斎写楽
- 「ダイニング側」
- 閻魔凜
- 「任せて」
- 閻魔凜
- 「……アイスがいいの?」
- 宇賀菊之助
- 「(うん)」
- 閻魔凜
- (牛乳が好物と言っていたものね、まぁお腹を壊すことはないでしょう)
- 閻魔凜
- 「なら……どうぞ」
- 宇賀菊之助
- 「(つめた……生き返る……)」
- 閻魔凜
- 「アイス美味しい?」
- 宇賀菊之助
- 「(美味しい)」
- 閻魔凜
- (狼になっている時は言葉が通じないけど、嬉しそうだから……いいわよね)
美味しそうにアイスを食べる姿が可愛くて、
ついその頭を撫でてしまう。
ついその頭を撫でてしまう。
- 宇賀菊之助
- 「(あ……っ)」
- 閻魔凜
- 「そのまま全部食べてしまっていいわよ」
- 宇賀菊之助
- 「(……どうも)」
菊之助は頷き、器用にアイスを丸かじりした。
- 宇賀菊之助
- 「(はぁ……牛乳アイス……最高)」
- 閻魔凜
- 「よしよし」
ふかふかで、つやつやの毛並みを指先で梳くと
気持ちよさそうに鼻を鳴らす。
気持ちよさそうに鼻を鳴らす。
- JacK
- 「あ、お湯が沸いたから畳の方へどうぞ」
- 閻魔凜
- 「……では、お邪魔します」
- 閻魔凜
- (まさか、本当に点ててくれるなんて……)
- JacK
- 「おやつも買っておいたよ。ほら、この練り切り美しいだろ?」
彼が差し出したのは───
- 閻魔凜
- 「これは、あの紅い藤ですね?」
- JacK
- 「そうそう! 裏通りに美味しい和菓子のお店があるんだよ。もう今にも潰れそうなんだけど、すっごく腕がいい」
- 閻魔凜
- 「知りませんでした、何度も通っているのに」
- JacK
- 「看板さえ出してないからね。もし気に入ったのなら今度一緒に行こう」
そうして彼はお湯とお菓子を運んでくると、
慣れた仕草で茶を点て始めた。
慣れた仕草で茶を点て始めた。
- 閻魔凜
- (やはり、本当に……茶)
- 閻魔凜
- (正真正銘のお抹茶……)
- 閻魔凜
- (でも……綺麗だわ)
配信のあの姿からは想像もつかない、
ぴしりと筋の通った雅な佇まい。
茶筅を動かす指先一つさえ、美しいのだ。
ぴしりと筋の通った雅な佇まい。
茶筅を動かす指先一つさえ、美しいのだ。
- 閻魔凜
- (……妙な男)
- JacK
- 「はい、どうぞ。作法なんて気にしないで普通に飲んで」
- 閻魔凜
- 「では……いただきます」
出来るだけお淑やかに唇を寄せ、一口含む。
- 閻魔凜
- 「……こんな味でしたっけ」
- JacK
- 「美味しいという意味で? 不味いという意味で?」
- 閻魔凜
- 「もちろん、美味しいという意味です。余り飲んだことはなかったのですが……」
- JacK
- 「美味しく立てるコツがあるんだよ、教えて欲しい?」
- 閻魔凜
- 「ええ、是非」
- JacK
- 「君への愛」
- 閻魔凜
- 「…………」
- 閻魔凜
- 「お頼み申す」
- 村上誉那
- 「うわ……!」
- 宇賀菊之助
- 「え!?」
- 石川五右衛門
- 「……来た、本当に」
- 東洲斎写楽
- 「いらっしゃい、お客さん」
- 魂緒
- 「姉貴! あっしがお守りいたしますのでご安心下さいませにゃ!」
- 閻魔凜
- 「あらタマ、可愛いわね」
- 魂緒
- 「こんなこともあろうかと、密かに湯浴み道具を準備しておきましたのですにゃ!」
- 閻魔凜
- 「……また、無駄遣いしたの?」
- 魂緒
- 「無駄遣いではないですにゃ! 姉貴の護衛のためですにゃ!」
- 石川五右衛門
- 「まぁまぁ獄卒殿、お背中でも流しましょうか」
- 閻魔凜
- 「五右衛門でもそんな冗談を言うのね」
- 石川五右衛門
- 「いや、本気だけど?」
- 閻魔凜
- 「……!」
- 閻魔凜
- 「……そう邪険にしないでくれる? 私、今日この温泉に初めて入るのよ」
- 宇賀菊之助
- 「あ! そっか! そうだったんだ! なら入れ入れ、気持ちいいからさ」
- 村上誉那
- 「なるほど、入ったことなかったのか。まぁのんびりしていけ」
- 閻魔凜
- (いきなり態度を変えて、もう)
×