- 朱砂
- 「まぁそう……───怯えずに」
- オランピア
- 「……これは?」
それは、不思議な輝きを帯びた首飾りだった。
真珠とも違う、青や白や紫の色を放つ
美しい何かの貝。
- 朱砂
- 「この月光貝を研いだもので、俺とお揃いです」
彼は懐から同じ形のものを取り出した。
- 朱砂
- 「その昔、かたちのない神が自らの霊玉を二つに分かち、男と女を作った」
- オランピア
- 「……っ」
- 朱砂
- 「それ以来、人は半身を失った状態で産まれることになり、互いの対となる相手を捜し求める運命となった」
- 朱砂
- 「故に人はその半身に巡り逢うと……恋しさの余り片時も離れずにいられなくなるという」
- 朱砂
- 「貴女が俺の半身であってくれたらと願います」
- 朱砂
- 「いえ……個人的にはそう決めているのですが、貴女の承諾が必要なので」
- オランピア
- 「あ、あの……っ」
- 朱砂
- 「この首飾りが不要でしたら、今すぐ海に放って下さい」
- オランピア
- 「朱砂? な、何を言うの……っ」
- 朱砂
- 「俺が欲望に任せて襲いかかっても、この狭い舟からは何処にも逃げられませんよ」
- オランピア
- 「……!!」
- オランピア
- 「い、今すぐ海に飛び込んで浜まで泳ぐわ! 私、泳ぎには自信が……」
- 朱砂
- 「では飛び込みますか?」
彼の視線が、海に向けられる。