今夜の作品は、娼婦がスパイに勧誘される話だった。
何故か、自分の時のことを思い出してしまう。
スパイとして様々な活躍を続ける彼女。
けれど彼女は、敵の将校を逃がしてしまう。
───恐らく、愛していたから。
そんなことを考えていると不意に涙が滲む。
バッグの中からハンケチを取り出そうとして、
そのまま床に落としてしまう。
それに気付いた滉が、素早く拾い上げてくれる。
私は小さく笑んで頭を下げ、そのハンケチを受け取る。
その瞬間。
彼の指が触れて、私は思わずまたハンケチを落としそうになってしまう。
すんでのところで白い布を握り締め、
私はまたスクリーンに視線を向けようとした。
けれど───すぐ側に彼の顔があって、私の躯が勝手に強張ってしまった。
滉は、じっと私を凝視めている。
映画館の薄暗がりの中でも、彼の眼差しがはっきりと分かる。