原作【7月6日のモノローグ】について
こんにちは。【夏空のモノローグ】でシナリオを担当させていただいた西村です。
この場を借りて夏空のモノローグと、その前身とも言える【7月6日のモノローグ】について、スペースの許す限り語っていきます。
どうぞよろしくお願いします!
夏空のモノローグには、実は原作があります。オトメイトモバイルにて以前配信されていた小説【7月6日のモノローグ】という作品です。(※現在は配信しておりません)
僕が原案と執筆を担当。担当編集者として付きっきりで作品を見てくれたのは、【S.Y.K 〜新説西遊記〜】などで活躍中のディレクター島さんです。
制作当時は本当にお世話になりました。
夏空のモノローグと同じく、1日をループすることになった科学部の面々の成長を繊細に描いていく、という作品ですね。
心がけたのは【等身大の少年少女】【等身大の大人】の【どこにでもある、けれどとても強い想い】です。
救いようのない現実や、どうしようもなく喪われていくものと向き合っていく人々の姿。
そういうものを真摯に描いていこうと思っていましたし、読んでいただいた方々にいくらかはお伝えできたと思っています。
もちろん、【7月6日】は切ない恋愛物語でもあります。
恋愛の相手は浅浪皓。科学部の顧問の先生ですね。
甘さだけではなく、恋愛のよい部分もうまくいかない部分も、きちんと書くことができたのではないかなと思っています。
【夏空】は、【7月6日】とは基盤とする設定から別モノとなっていますが、雰囲気や語るテーマはしっかりと継承しています。
【7月6日】に触れていただいた方にも、そうでない方にも楽しめる作品になっていますので、ぜひ手にとっていただきたく思います!
【夏空】と【7月6日】のストーリー性
【夏空のモノローグ】には、【7月6日】にはなかったアドベンチャーという媒体ならではの工夫がいくつか凝らしてあります。
突然ですが、少しだけネタバレしてしまいますね。
【夏空】には各ルートにまたがった、ある大きな仕掛けがしてあります。
とても勘が鋭く、【夏空のモノローグ】の情報を追いかけていただいている方なら、ひょっとしたらすでに気が付いているかもしれません。
ゲームを実際にプレイした際、2週目に入った直後にもヒントがありますので、そこで気が付かれる方も多いかと思います。
そしてどんな方でも、2週目のある部分で、主人公たちの間に何が起こっているのか気付くはずです。
何が起こっているのかを知れば当然、【なぜ】そんなことが起きているのかが気になってくるはずです。
ぜひ、隠された真実を探ってください。
【なぜ】の答えを主人公が見つけたとき。物語はクライマックスを迎え、その結末はプレイヤーの皆様にゆだねられるという形になります。
もちろん、各ルートで語られるそれぞれの人物との恋愛も、一筋縄ではないものばかりです。
【7月6日】を読まれた方なら見当が付くかも知れませんが、木野瀬のアレやカガハルのソレも、もちろん【夏空】の物語の中で語られていきます。
【7月6日】では詳しく語られなかった沢野井の事情や【夏空】で初登場をはたした篠原、綿森の事情はもちろん、
木野瀬やカガハルのエピソードもより深く、違った視点で語っているので、【7月6日】をご存じの方にも
また楽しんでいただけるはずです!
どのルートも切なさを感じさせる、個別の展開がありますので、毎回新しい気持ちで物語に浸っていただけますよ。
あまり切なさばかりを強調してしまうと、悲劇的な結末を連想してしまうかもしれませんが、そこは安心してください。悲しさと優しさをほどよい具合に混ぜ込んだお話となっています。
企画誕生秘話
【夏空】の原作となった【7月6日】、実のところ最初はゲームの企画として提出したんです。
しかし諸事情あって企画に変更を加え、オトメイトモバイルでの小説として世に出すこととなりました。
その後、このまま終わらせるのは惜しいという大変ありがたいお言葉をいただき、再びゲーム化への道を歩むこととなりました。
【7月6日】【夏空】の元となるアイディアは何年も前から準備していたもので、企画になるまでかなりの時間がかかっています。
現代の学園を舞台にして、少年少女の恋愛や成長を直球で書きたいとはずっと思っていました。それを表現するなら、どのような設定が有効なのかなと考え――。
最初に浮かんだイメージが、ばかでかい建造物とタイムループ、そしてひとつの言葉でした。
「大人になるということは、捨てることに慣れること」
子供の頃どこかで聞いたそんな言葉が、企画を作っている間、そしてシナリオを書いている間も頭のどこかにあったような気がします。
もし人が、ずっと子供ではいられないのだとしたら。
僕たちは生きていくうちに、たくさんのものを捨てざるを得なかったのではないかな、というようなことも考えていましたね。
僕たちが、意識的、無意識的にたくさんのものを捨てて生きているとして。
絶対に失いたくない、大切なものを捨てなくてはいけなくなったとき。
「ここに居続けるなら、それは捨てなくてもいいよ」
そう言われたらどうなんだろう。自分なら何を考え、どんな結論を出すのだろう。
なんてことを考えながら企画を作っていました。
えー……あまり語り過ぎるのも無粋な気がしてきました……。
原作における【7月6日】も、夏空における【7月29日】も切ない恋愛を体験できるお話であることに変わりはありません。
後は実際にゲームをプレイしたときのお楽しみです。
きっと素敵な時間を過ごせると思います!
では、長々と失礼しました。
またいつか、機会があれば。
原作ディレクション担当 島れいこ より 応援コメント
初めましての方もそうでない方も、こんにちは。
【夏空のモノローグ】の制作秘話が語られるということで駆けつけてきました。
デザインファクトリーの島れいこと申します。
前述で西村氏が話題に出しておりますが、【夏空】の原作である【7月6日のモノローグ】の制作時に監修・編集担当として携わらせて頂いておりました。
オトメイトモバイルでの初のオリジナル連載小説ということで、当時のことは記憶に色濃く残っています。
連載という展開上、1話1話を大事に、シナリオが上がってはその後の展開を練り直し、互いの意見交換で盛り上がったり行き詰ったり……。
モバイル配信だったので当時のボリュームはコンパクトだったのですが、作品の中に詰まった「明日への不安」
「現状維持」「明日への希望」そのテーマ性には、夜中にシナリオをチェックして目頭を熱くしていたのもいい思い出です。
原作は【7月6日という一日が繰り返される】というミステリ要素を掲げた作品にも関わらず、
物語の中に潜むのは思春期の繊細な空気感であり、リアリティのあるキャラクター性が最大の魅力でした。
西村氏の創り出すキャラクターたちが抱える問題は、突拍子もない絵空事や非現実的なものではなく、私たちが日常でも悩み惑う【等身大の困難】です。
他人が平気で歩めているように見える一歩が、自分にとってはとても難しい時。そんな経験は自分にもあります。
【7月6日】の制作が完了した時に強く思ったのは「その一歩が、誰かに伝わって欲しい」でした。
西村氏の描く等身大のキャラクターは台詞のひとつひとつが、キャラの成長でありユーザーへの問いかけでもあることが多いんですね。
物語の中で、キャラたちが未来に怯えて、過去に縋って、あるいは過去を切り捨てて、一歩一歩を踏み出していくその「変化」。
些細だからこそ困難なその勇気が、読む人に伝わってくれればいいなと思える作品でした。
そして本作【夏空のモノローグ】にも、西村氏の描く繊細な世界観とテーマ性、そっと寄り添うような距離感で語りかける物語が息づいています。
【7月6日】を知っている方は、それを基盤にした【夏空】がどんな新しい物語を描くのか、ぜひ体感してください。
原作を知らない方にも、楽しく賑やかで、それでいて切ない【7月29日】を何度も楽しんで頂きたいと思います。
それでは、素敵な夏の一日が皆さまの心に響くことを祈って。島でした。