眼鏡をかけた青年
「じゃあ、お代はこれで」
トレイの上に乗せた紙幣が目に入り、目を細める。
渕田 結茉
(見たことがない、千円札……?)
千冬
「ええと……このお金は、初めて見るんですけど……」
渕田 結茉
「あっ……もしかして昔のお札じゃない?
ネットで見たことならあるけど、実物は初めてで……この人、伊藤博文だよね?」
眼鏡をかけた青年
「ん? あ、そっか。新しいお金に変わったんだっけ。
これなら問題ないでしょ?」
次に青年が差し出した千円札には夏目漱石の肖像画が描かれてあった。
千冬
「これ……ですか?」
眼鏡をかけた青年
「うん。あれ? これも駄目なの?」
千冬
「実はこれも見たことがなくて。 多分、旧札だと思うんですけど……
私には判断できないので店主を呼んでもいいですか?」
眼鏡をかけた青年
「え~? 時間かかるの嫌だよ。
古いお金だと使えないとか、わけわからないんだけど」
……さっき抱いた疑いが、確信へと変わりつつあった。
渕田 結茉
(創業時のことを知っていたり、 旧札を平気で出したり……この人、妖怪かも)
妖怪であれば人より長く生きているはずだし、
昔のことを知っていても不思議はない。
服装からして、大昔……というわけではなさそうだが、
それにしても何故次々と旧札が出てくるのだろう?