舞台となるのは、
人と仙と聖獣とが息づく世界――
栄華を極める月下ノ国の辺境には、
二つの民族が息づいていた。
人の踏み入れぬ雪山で生き抜く白狼族。
――そして、茉莉花の咲く秘境に
暮らすマツリカ族。
「けして連れ出してはならない花の咲く、
炎に嫌われた秘境、か」
マツリカ族の少女は、
今日も蛍に歌を捧げる。
瞳に“炯眼”を宿した彼女こそ、
一族の命を繋ぐ“火”をもたらす者――
宝玉鑑定士。
景星節で彼女が成人を迎える時、
全ての因果は巡りだす。
傷つきながらも生き続ける人がいた。
誇りと尊厳を守る為に
奪われた命があった。
彼らの意志を裏切って
繋がれた使命があった。
「私は、お前を忘れない。
この身が朽ちて果てようとも」
禍福の風が吹き荒れて、
古の調べが重なり合う。
けして手折ってはならぬ秘境の花。
彼女を連れ去ったのは、誰か。
血胤を受け継いだ者たちの、
異なる使命が動き出す。
これは、
正史に名を残さぬ者たちの物語――