- 燕來
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「役立たずは役立たずらしく大人しくしていろ」
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役立たず――そう断言されてかっと腹の内が熱くなるのが分かった。
- ナーヤ
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「なら……もう、結構です!」
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叫んだ瞬間、私はそんな自分に驚いた。
尊厳が傷つけられて怒る気持ちが、自分の中にまだ残っていただなんて。
けれど、一度言葉にしたらもう止まらなかった。
我慢していた思いが溢れ出してしまう。
- ナーヤ
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「そこまで言われて貴方を頼る程、私は恥知らずじゃありません!
ここを、出て行きます……!」
- 燕來
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「はっ。私を頼らずにどう生きるつもりだ。
あのマツリカ村の娘如きが」
- ナーヤ
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「どんなに大変な仕事でも、やってみせます。
下働きをさせて貰える場所をきっと探してみせます……!」
- 燕來
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「甘いな。世間知らずの娘が一人で生きられる程、生易しい世ではない」
- ナーヤ
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「何をしても、這いつくばってでも探すわ!
正しいと思う考えを曲げて無為に生き永らえるぐらいなら、その方がずっとましです……!」
- 燕來
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「――……っ」
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叫んだ次の瞬間、腕に痛みが走った。
いつの間にか燕來さんの顔が眼前にある。
今の一瞬で、彼に両腕を拘束されたと気がついた。
- 燕來
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「そんな甘い考えで生きていけると思うな。
……私の慰み者にしてやってもいいんだぞ」
- ナーヤ
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「慰み、者……?」
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意味が分からず問うと、彼は視線を鋭くして腕を拘束する力を強めた。
片手だけで私の両腕を押さえている。
彼の力は強く、私はまるで動けなかった。
彼は、片方の手しか使っていないのに。
- 燕來
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「こうされただけで、お前は動けなくなる。
その後何をされても抵抗出来ない苦しみをお前は知っているのか」
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棒打ちの痛みは、経験したばかりだった。
それでも彼の言葉に屈したくはなくて、私は鋭い目を睨み返す。
青凛さんの友でありたい気持ちも、患者さんに効く薬を出したいと願った思いもどれも間違っていたとは思いたくない。
- ナーヤ
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「殴るというなら、構いません。……それぐらいとっくに覚悟出来ています」
- 燕來
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「…………」
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彼の纏う温度が下がったのが分かった。
一層冷ややかな目をして、彼が私の服の裾を割り裂く。
- 燕來
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「与えられるのが苦痛だけだとでも思っているのか? とんだ物知らずだな」
- 燕來
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「――お前は悦楽を、まだ知らぬ娘だ。それが価値を生む。
月下ノ国は、そうした場所だ」
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不意に甘さを帯びた声で囁いて、燕來さんが喉の奥で笑う。
――ふ、と。
彼の唇が私の喉元に触れたのが分かった。
- ナーヤ
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「なに、を――」
- 燕來
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「女の体にある価値を、お前はまだ知らない。
……だが月下ノ国の男たちはお前以上にそれを知っているんだ」
- 燕來
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「下働きの出来る場所を探すというならば、こうされる事も覚悟しておけ」
- 燕來
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「苦痛なら耐えられるだろうが――
与えられる快楽に抗えずに慰み者になる惨めさに、お前は耐えられるのか?」
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嘲笑を含んだ声が耳をくすぐる。
その直後に喉元をちろりと舐め上げられ、私は、驚いて声を上げてしまった。
- ナーヤ
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「あ……っ」
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意図せぬ声に、はっとする。
慌てて口を閉じようとしたけれど、それは許されなかった。
触れられた箇所が生んだ熱に、私は息を呑む。
何をされているのか、分からなかった。
- 燕來
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「どうした。覚悟は出来ているのだろう」
- ナーヤ
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「や――」
- 燕來
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「この程度で音を上げるならばお前には無理だ。早々に諦めろ」
- ナーヤ
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「っ……、嫌、です!」
- 燕來
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「ならば仕方ない。――これはお前が選んだ未来だ」
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またも、私の知らぬ場所に触れられ、頬が熱くなり、息が弾む。
そんな自分に当惑した。
- ナーヤ
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(どうして……、何が、起きているの……?)
- 燕來
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「先程までの威勢はどうした。何をされても耐えられると言っていただろう」