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その時、耳元を大きな風が横切った。
私の祈りに応えるように強い風が私の背を押す。
はっと目を開いた瞬間、私は、そのまま凍りついた。
恐ろしげな化け物が、そこには立っていた。
- ???
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「――……」
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長い角に、見たこともない動物の骨。
鋭く尖った爪が薄暗い竹林の中で鈍く光り、私はただ言葉を失って立ち尽くした。
- ナーヤ
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(これは……なに?)
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見たことも、聞いたこともない姿だった。
鋭い角に、人ではない頭。
――ふと、ルヲから聞いたばかりの話を思い出した。
あの後、ルヲは丁寧に教えてくれた。
四凶と四聖獣の事を。
人々に災いをもたらす四凶と、人々に幸いをもたらす四聖獣。
月下ノ国にいるという、化け物と瑞獣。
四凶は、恐ろしい見目をしていると言っていた。
半身人面、人面虎足。大きな犬のようなものから牙の生えた者まで――。
- ナーヤ
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(まさか、これがルヲの言っていた四凶……?)
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けして出てはならない村を出ようとする私を、喰らう為に来たのだろうか。
兎の巣穴で待ち構える狐のように。
- ???
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「――オマ、エ……」
- ナーヤ
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「え……?」
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風に乗って聞こえた掠れた声は、確かに言葉のように聞こえた。
驚く私に向かって、その獣が手を伸ばす。
鋭い爪が眼前に迫る――。