好鳥房で過ごしているうちに、日は暮れ始め、夕陽が柔らかく部屋を照らしていった。
好音房からだろうか、どこからともなく美しい楽の音が風に乗って聞こえてくる。
それが蛍琴の音と似ていたせいか、夕陽を見ているうちに、私は懐かしさを覚えた。
ナーヤ
(マツリカ村にいた頃は、これぐらいの時間に飛迅馬に乗って蛍を探しに行ったっけ――)
ふと、自分でも気が付かないうちに唇から歌がこぼれ落ちていた。
歌ってから、気がつく。
これは私が、蛍を集める時に歌っていたものだ。
青凛
「……――」
ふわりと、風が髪を揺らす。
私の歌を聞いて、青凛さんが息を呑んだ。
青凛
「この、歌は――」
青凛
「なんて、美しい歌声でしょう。もっと……もっと聴かせて下さい」
熱っぽい眼差しで彼が見ている。
余程歌を気に入った様子に、私は続けて彼に歌を捧げていった。
青凛
「……続けて」
懇願されるままに、私は歌っていく。
歌うにつれて、青凛さんの体が次第に傾いていくのが分かった。
そして――。 彼は私の膝に頭をもたせかけて横たわった。
飛迅馬や山羊が甘える時のように、彼が寝入る姿勢で歌に耳を傾けている。
ナーヤ
(ええと――)
青凛
「やめないで。歌を、もっと聴かせてください」
切実な声でせがまれて、私は戸惑いながらも歌い続けた。
歌うにつれて、もたれかかる重みが増していく。
うっとりと目を閉じて、彼は微笑んだ。
青凛
「何故でしょう……。なんだか……、ほっとしてしまいます」
青凛
「ずっと……この歌を、聴きたかったような気がします――」
眠気を含んだ声で、彼が、嬉しそうに笑っている。
そして少し経つうちに、彼の唇からは、穏やかな寝息が聞こえてきた。
青凛
「すぅ……すぅ……」
ナーヤ
(寝ちゃった――)
そんなに歌が心地よかったんだろうか。
近所の子に子守唄を聞かせた時のような反応に、つい笑いそうになってしまう。
ナーヤ
(そういえば青凛さんは、まだ十七なんだっけ)
初めて会った時に、お姉さんが『もう十七になるのだから』と言っていた気がする。
だとしたら私の一つ下だ。
もちろん、マツリカ村と月下ノ国で、年の数え方が同じなら、だけれど。
あどけなく見えるその寝顔に、微笑みながら歌い続ける。
その時、普段なら遠巻きに見ているはずの小鳥たちまで、歌に誘われたように私の肩や腕に舞い降りてきた。
もっともっと、とせがむように小鳥たちがさえずっている。
ナーヤ
(わ……)
彼らに応えるように私は歌い続ける。