ジョン(後編)
懐中時計の使い方を確認し終えると、アプローズは立ち上がった。
「見送りはいらないわ。というか来ないで。一緒にいるところはできるだけ見られないほうがいいでしょう?」
「そうだな。けど姿が見えなくなるまで窓から見ててやるよ」
「はいはい、わかったわ。本当にあなたって――」
「心配性、だろ。でも心配ぐらいさせろよ……二人きりの幼馴染、なんだから」
「そうね、ずっと二人で生きてきた。二人だけ、生き残ってしまった……」
アプローズの瞳に昏い影が落ちるのが見えて、ジョンはぐっとその肩を引き寄せた。
「俺は最後まで傍にいる……約束したこと、覚えてるか?」
「ええ、覚えてる」
深くため息をついてからアプローズは思いきりをつけるように、ジョンから体を離した。
「もう行くわ」
「……ああ。気をつけろよ」
アプローズが部屋を出て行くと、ジョンは宣言通り窓から彼女の背中を見送った。
しかし、しばらくするとガラスから目を逸らす。
「最後まで傍にいる、か」
思わず声が漏れた時、まだ手に持ったままだった懐中時計に異変を感じた。
(嫌な時にくるな。それとも狙ってやってるのか?)
唇を噛みしめたジョンの耳に、鳥の羽ばたきが聞こえる。それは今一番聞きたくない音だった。