ルーカス(後編)
憂鬱な長旅の末ローアンへ到着すると、ルーカスの気持ちはますます沈んだ。
馬車の窓からは活気あふれる街並みと笑いながら通り過ぎていく華やかなヒトビトが見えたが、もちろんそれらは彼の気持ちを浮き立たせはしなかった。
あらかじめ邸へ向かう前に回り道するよう御者へ命じていた街の郊外のある場所へ差し掛かると、ルーカスはようやく僅かばかりの安らぎを得る。
(こんな場所で安堵の息をつくのは僕ぐらいだろうな……)
しかし今は馬車を降りるわけにはいかず、その場所を横目に眺めながらルーカスは因縁の邸へと向かった。
到着したサリヴァン家のタウンハウスで、ルーカスは独りきりだった。どこかに執事はいる。それはわかっているが、彼は頑なに自分は独りだと考える。
にも拘わらず――ルーカスは耳を塞いだ。
「うるさい」
耳を塞いでも。目を閉じても。彼は独りなのに独りになれない。
(……ヒトは嫌いだ。生きていようが……死んでいようが、誰もかれも醜く汚い。もしすべての存在が彼らのようだったなら)
持ってきた荷物の中から1冊の画集を取り出したルーカスは、そこに描かれた純妖精の姿を憧れをもって見つめた。
(いや、わかってる。一番醜くて唾棄すべき存在は……自分だ)
深くため息をついたルーカスは、音を立てて画集を閉じた。