ライナス(後編)
エデンにほど近い路地の入口で、ライナスは足を止める。最近追っていた反体制記事を書く新聞社のアジトがここにある、というのが彼の部下が上げてきた報告だった。
「あの建物です。路地の出入り口にウォードの者を配置済みですが、踏み込みますか?」
「いや、今はまだ泳がせておこう。捕まえるのは決定的な証拠が出た瞬間――そうだな、たぶん五家がローアンに揃ったあたりで奴らは動く。その時を狙って一網打尽にする」
冷めた目で答えてから、ライナスは少しだけ表情を和らげて彼の部下を見た。
「ひとまずご苦労様。これからしばらくは交代で見張りを置いてくれると助かるよ」
「承知しました――では、他の者にも伝えてまいります」
部下が去って行くと、ライナスは近くの壁に背中を預けてため息をついた。
(ここの匂いは嫌いだ。陛下への嫌悪、悪態……憎しみの感情がこびりついてるみたいで、むかむかする)
嫌なものを振り払うように目を閉じると、ライナスの瞼の裏に懐かしい森の風景が浮かんでくる。温かな木漏れ日を浴びながら、『あの子』が立っていて――
「……っ! はぁ。こんなところで寝るなよ、ライナス=ウォード」
パッと目を開けたライナスは自分に対して悪態をつくと、路地に背を向けて歩き出した。