アルフレッド(後編)
一度タウンハウスへ戻って着替えたアルフレッドは、ある場所へ向かうためローアンの街を歩いていた。普段からよくローアンへ来ているライナスや、郊外に邸をかまえるエドワード、そして良くも悪くも目立つアスコットなどとは違い、アルフレッドの容姿は街のヒトビトに一目でクレスウェルの当主だと気づかれるほど認識されているわけではない。
にも関わらず、今の彼はすぐに彼だとは認識されにくい装いを選んでいた。
(既に他家が……特にライナスが来ているかもしれないからな。気づかれずに越したことはない)
アルフレッドの視線は賑わう大通りではなく、そこから伸びる暗い路地の方へ向けられる。
道行くヒトの中に見知った人物がいるのを見つけたアルフレッドは自然な足取りでそちらへ移動した。
その人物と距離をとったまま歩くと、アルフレッドは『エデンオブローアン』――通称『エデン』と呼ばれる地区まで進み、やがてあるひとつの建物の前で足を止める。
(あまり派手に動くと気取られるな。となると気休め程度のことしかできないが……)
アルフレッドがひび割れた壁に手をつき何事かを呟くと、その建物は一瞬淡い光を帯びるが瞬きの間に光は消えた。
(……動き出すのは、もう少し後だ)
全てが明るみになっても構わないその時が来るまではと自分を戒めて、アルフレッドは素早くエデンを立ち去った。