目を閉じて

七魅「たとえばもし、愛するひとと出会うことができたら、新しい家族ができる」

七魅「君なら、どんな相手と家族を作りたい?」

主人公「え、わたしは……」

主人公「頼れるひと……かな?」

七魅「うん、いいと思うな」

七魅「男って、好きな子を守ってこそ強くもやさしくもなれるし……」

七魅「男にとって心底守りたいって思える女の子は案外少ないもんだよ」

七魅「俺にとっての君みたいに……」

主人公「え……っ」

七魅「俺はいつでも君に頼ってほしいし、いつまでも守ってあげたいと思うけど」

主人公「……!」

妖しく色めく、甘い蜂蜜色の眼差しがわたしをじっと見据えてくる。

主人公「あの、彩瀬さん……」

七魅「…………」

彩瀬さんの両手が、肩に置かれた。

よかった

徒狩くんが、心配そうに覗きこんでくる。

主人公「徒狩くん……」

紅「生きてる……!」

紅「も……間に合わないかと」

主人公「徒狩くん……」

紅「本気で、ダメかと思った……!」

震えながら、力いっぱいわたしを抱きしめながら徒狩くんが絞り出すような声で、言った。

紅「そんなことになったら、オレ……も……今度こそ生きてらんない」

主人公「大丈夫だよ、徒狩くん」

主人公「わたし、無事だよ。徒狩くんが助けに来てくれたのもちゃんとわかったよ」

紅「でもオレ、ちっとも間に合ってなかった」

主人公「そんなことない。わたしの手、つかんでくれた」

震える指がわたしの服を必死で掴んで、いつまでも離れない。
爪が、布越しに皮膚へ食い込んで鈍く痛んだ。

絡み合う指と指

サフィ「……アナタって、ホントにお節介だよ」

そう言って、サフィくんはちいさなため息をもらした。

サフィ「ひとは誰でも相手を勝手に理解した気になって、安心したいんだよ」

サフィ「勝手にきれいなものを思い描いて、そのとおりじゃなければ勝手に失望する……
    馬鹿馬鹿しいよ、ホントに」

サフィ「ボクはもう、誰にも期待なんてしたくない」

主人公「サフィくん……」

サフィ「なのに、アナタの目っていつもキラキラしてて、
    そういうの、本当に……すごく困る」

ふと、サフィくんの指がわたしの指に絡んだ。

主人公「サフィくん……ひんやりしてる」

サフィ「……アナタが温かいだけだよ」

夢の口づけ

アダマス「………………」

アダマスさんは、なにも言わないままただやさしく微笑んでいた。

アダマス「また危うく間違えてしまうところだった。俺はこの場所からもう一度やり直す」

アダマス「カルミナの、この場所から」

主人公「違う……アダマスさん。違います」

必死に言うと、アダマスさんはなだめるようにそっと優しくわたしの手を取った。

主人公「アダマスさん、聞いて」

アダマス「光が差さなければ輝くことさえできないいまの俺は……所詮ただの石ころだ。
     おまえにふさわしくない」

わたしは必死で首を横に振ったけれど、アダマスさんは微笑むばかりで。
触れる指は、ただ、ひたすら優しくて。

主人公(なのに、どうしてこんなに不安な気持ちになるの……?)

やめてくれないか

主人公「あ……お疲れさまです、皇さん」

征一郎「ああ、お疲れさま。……ごめんね。今日、気分悪かったでしょ」

主人公「いえ。わたしは、なにも……」

征一郎「あとで徒狩くんとオーナーにも謝らないと……」

主人公(皇さん……いつもの笑顔がどこかへ行っちゃってる)

主人公「あの、皇さん。みんなそれほど気にしてないと思います。
    確かに記者さんはちょっと感じが悪かったけど……」

主人公「それに、インタビューそのものは悪いことばかりじゃないかもしれませんよ」

主人公「いろんなひとに皇さんの素敵な仕事ぶりを知ってもらえるし――」

征一郎「悪い、やめてくれないか」

いきなり、冷たい声が飛んできた。

征一郎「それに俺は……きみが言うようなすごい人間じゃない」

主人公「皇さん……」

皇さんは、組み合わせた指をじっと見つめて、それ以上なにも言わなかった。

主人公「……ごめんなさい」

現実世界のアレン

主人公(……留守なのかな?)

もう一度インターホンを押そうとしたとき、異変に気がついた。

主人公「あ……っ」

主人公(ドアが少し開いてる……まさか……!)

主人公「彩瀬さん……!」

急いで部屋に駆け込むと、
夕映えの光に背を向けるようにして小さくうずくまる人影を見つけた。

まるで光から逃れるように、暗い片隅にしゃがみ込んでいる。

主人公「彩瀬さん、大丈夫ですか? 気分でも悪いんですか?」

肩に手をかけ、丸めた背中に声をかけると、黒いかたまりが顔を上げた。

アレン「アヤセって、誰?」

主人公(アレンさん……!? どうして彩瀬さんの部屋に……?)

アレンさんの瞳は涙に濡れて、不安げに揺れている。

まるでいまにも消えそうなキャンドルみたいに。

アレン「ここ、どこ……目が覚めたらすごく眩しくて……」

アレン「すごい光がベッドの上に射し込んで……
    いくら逃げても、時間が経つとまた俺を追いかけてくるんだ」

アレンさんの震える指の先に、少しだけ開いたカーテンがあった。

主人公(そうか……カルミナには夜しかないから)

主人公「大丈夫です、アレンさん。なにも怖いことはないんです」

アレン「本当に? ここは地獄じゃない?」

主人公「違います。ここはわたしが暮らしている世界です」

主人公「いつもここから、アレンさんに会いにいっているんですよ」

僕を置いていきなさい

エメル「きみも薄々は、この世界の意味に気づいているのではないですか?」

主人公(カルミナの意味……?)

エメル「この本を読んでみてください」

そう促されて手渡された本を開いてみたけれど、白紙にしか見えない。

主人公「ごめんなさい、この世界の文字はわたしには見えないみたいなんです」

エメル「見えない……? それほどまでに、きみとカルミナは隔たりのある存在なんですね」

主人公(え……っ?)

気づいたときには、強く抱きしめられていた。

エメルさんの身体はひやりと冷たく、かすかに震えている。

エメル「僕は、この世界の秘密を知りたいとずっと願っていました」

エメル「きみに選ばれれば、その糸口をつかむことは容易になる。
    ……そのためにきみを利用していた」

主人公「エメルさん……」

エメル「そしてようやくその秘密にたどり着いた。
    しかし自分が焦がれていたその内容が、これほどまでに残酷なものだとは……」

エメル「すみません。どうか、いまだけは……」

しがみつくようにして、強く、強く抱きしめられる。

月下のクズ石

マチュラ「――おまえが、宝石を選ぶ娘とやらか」

唐突に、男のひとの声がした。

振り返ると、全身をマントに包んだひとが立っていた。

主人公(このひと……誰?)

カルミナに来て、宝石さんたちと城主さん以外のひとを見るのは初めてだ。
だけど、彼らとはずいぶん様子が違う。

全身から、荒んだ気配が漂っていた。
色あせたボロボロのマントに身を包んでいまにも闇に埋もれてしまいそう。

マチュラ「答えろ、娘」

強い調子でもう一度、訊かれた。

主人公「………………」

どう言おうか迷って答えずにいると、彼が一歩踏み出して、低い声を上げた。

マチュラ「どうした、娘。口がきけないか」

主人公「あなたは誰? どうしてそんなことを訊くんですか」

ふいに、彼の気配が鋭くなった。

マチュラ「俺の問いには答えず、俺の正体を問うのか、小娘……」

凄みの滲む声に、身がすくんだ――そのとき。

風が彼の目を覆っていたフードをさらい、素顔を暴き出した。

不快そうに寄せられた眉。
瞳には光がなく、わたしの後ろで焦点を結んでいるかのように虚ろだった。

マチュラ「おまえはなぜ、宝石を選ぶ」

暗い、声。

マチュラ「……なぜ、俺は選ばれない」

主人公「え……?」

マチュラ「俺は、未来永劫選ばれない。なぜだ? 答えろ娘」

城主死す

城主「ぐ……」

主人公(なに、これ……いったい、どういう……)

部屋にはきつい影と光しかない。
わたしのよく知っているカルミナの広間はどこにも見当たらなかった。

破れた窓から気まぐれに弾ける雷鳴がこの世のすべてを縫い止めてしまったようにも思えた。

主人公「城主さん……! しっかりしてください、城主さん!」

アレン「…………城主が」

エメル「バカな……城主を討つだなんて、そんなバカげたことを……」

サフィ「ウソでしょ……
    だいたい、城主がクズ石に遅れを取るなんてそんなことあるはずない……」

マチュラ「ふ……は、はははは……!くくく……あははははは!」

マチュラ「やった……! やったぞ! やってやった……! はは、あははは!
     これでこの城は、俺たちのものだ……!」

アダマス「なにを……バカな」

マチュラ「俺たちを森に棄てた男は、これで死んだ! 死ぬんだ……! あはははははは!
     ざまあみろ!!」

アダマス「死ぬ……?」

マチュラ「そうだ、死ぬ! 死ぬんだ! ここで終わりだ!」

ハッとして顔を上げると、マチュラさんがギラギラした瞳をこちらへ向けていた。

マチュラ「あとは……娘を手に入れるだけだ」

憎しみが、悪意が、まるで高波のように押し寄せてくる。

どうしてたんだよ

ルーさんはパッとわたしの手首から手を放して、ベッドへどすんと腰を下ろした。
それからポンポンとマットレスを叩く。

ルー「もーいいからここ座れ。ここ。今日は痛いことしないでおいてやるから」

ルー「だいたいオマエ、どうせまた寝ちまうんだろ。だったら、ぶっ倒れる前に寝とけ」

うなずいて、わたしはルーさんの隣に座った。
とたん、ぎゅっと抱きしめられる。

主人公「……ルーさん」

ルー「なんでしばらく起きなかった。オマエ」

主人公「ちょっと具合が悪かったので、たぶん、そのせいです……」

ルー「あのクズ石共のせいか。くっそ。次は潰す」

主人公「でも、もう元気ですから。大丈夫です」

ルー「二度と起きねーかと思ったじゃねーか。心配して損したぜ」

主人公「……心配、してくれたんですか?」

ルー「……っ!」

ルー「……そりゃ、オマエには満月にオレを指名するっつー大事な予定があるからな。
   その、困るだろ、いろいろと……」

主人公「はい……」

ルー「オイ、いま笑ったろ」

主人公「笑ってないです」

ルー「ウソつけ!」

主人公「きゃっ……」

肩を押されて、ベッドへ倒された。
真上からルーさんがわたしを覗きこんでくる。

ルー「いいからもう、言えよ。オレが一番だって」

あーん

わたしはショートケーキ、皇さんはタルトをそれぞれ頼んだ。

主人公(あ、生クリームが軽めで甘さも控えめ。
    美味しいけど、真咲ちゃんはもっとこってりしてるほうが好きだろうな)

征一郎「………………」

ふと顔を上げると、皇さんがタルトをひとかけ食べたきり、難しそうな顔をしていた。

主人公「どうかしたんですか?」

征一郎「うん……このアマンディーヌのシュクレ、ひと口食べてみてもらってもいい?」

主人公「はい」

主人公(って、え……!?)

主人公(これ、皇さんのフォークから直接食べろってこと、かな……)

征一郎「……あれ?ひょっとしてタルトは好きじゃない?」

主人公「い、いえっ。大好きです」

主人公(恥ずかしいです、ってわざわざ言うのもなんだか恥ずかしいし…………えいっ!)

思い切って、ぱくっとフォークを口にした。

主人公「わっ、お酒の味……」

むわっと鼻からアルコールの匂いが抜けた。

征一郎「うん。クレームダマンドにかなりラム酒が入ってる」

主人公「ずいぶん香りが強いですね。とっさに他の味がわからないかも……」

征一郎「うん、そうだよね。 好き嫌いが分かれる気がするな。
    でもうちとはターゲットが違うから……」

主人公(皇さん、お仕事モードになってる)

君が悪いんだ

アレンさんは、わたしの隣にちょこんと腰を下ろしてことりとちいさく首を傾げた。

アレン「なんの話をする?」

主人公「カルミナのことをいろいろ教えてください」

アレン「カルミナのこと……。 教えるような特別なことはなにもないよ」

主人公「でも、わたしにとっては不思議なことばかりで……」

アレン「俺にとっては、君のほうが不思議だ……」

アレンさんが、わたしの目を覗き込むようにみつめた――そのとき。
胸元でまだかすかに輝いていたペンダントの光に、アレンさんの目が釘づけになった。

アレン「え……? あれ、なんだ、これ……」

アレン「………………」

主人公「大丈夫ですか……あっ!」

ふいにふらついたアレンさんを支えようとあわてて手を伸ばすと――
強い力で体を引き寄せられ、そのままもつれるように花の中に倒れた。

主人公「アレン……さん……?」

アレン「君が、悪いんだ……」

主人公「え……?」

主人公(すごい力……動けない……)

アレン「君が悪いんだよ、いつも俺にやさしくするから」

アレンさんの声が、その息遣いが、すごく間近で聞こえる。

アレン「だから……」

アレン「だから! 俺は君を守りたいのに…… いつもこんなに苦しい」

主人公「そんな……」

アレン「いつでも……俺は……!!」

可愛いアレンジ

彩瀬さんは真剣な顔でわたしの髪に触れてくる。

七魅「……本当にきれいだな」

主人公「え……?」

七魅「………………」

主人公(あ、なんだ……独り言。 思わず聞き返しちゃった……恥ずかしい)

主人公(邪魔しちゃ悪いから静かにしてよう)

主人公(…………)

主人公(……………………)

七魅「――ん、これでいいかな。 ね、そろそろ起きて」

主人公「はっ……」

七魅「おはよ」

主人公「あ……いけない、わたし……」

七魅「すっごくよく寝てた」

主人公「ご、ごめんなさい……っ」

七魅「疲れているところ悪いんだけど、ちょっとだけ鏡、見てもらっていい?」

主人公「わ……っ」

見ると、いつの間にかわたしの髪型が可愛くアレンジされていた。

七魅「どう? 嫌じゃない?」

主人公「可愛い……!」

こんなのはどうですか?

エメル「以前こうして書庫の奥へきみを招き入れたこと……覚えていますか?」

主人公「……はい」

頷いたとたん、本棚に背中を押しつけられた。

主人公「…………っ!」

エメル「では、どうして僕についてきたんです?
    同じことをされるとは思いませんでしたか?」

主人公「……万が一ああいうことになっても、あれくらい……大丈夫です」

エメルさんの目を見て、精一杯の虚勢を張る。

エメル「ふうん?」

主人公「それよりも、エメルさんときちんと話せるチャンスだと思ったから……」

エメル「……僕と話してなにを知りたいのかわかりませんが、
    まあ、度胸は買いますよ、お嬢さん」

エメルさんが、まるで挑発するように笑みながらわたしの目を見つめ返す。
そのとき、胸元でまだかすかに輝いていたペンダントの光が、エメルさんの目を捉えた。

エメル「この光は! うっ、く! しまった……」

主人公「え?」

エメル「………………」

主人公「エメルさん……?」

エメル「……ああいうことになっても大丈夫…… そう言いましたね?」

エメル「それでは、こんなのはどうですか?」

主人公「あっ!」

突然強い力で引き寄せられたかと思うと、後ろ手に腕をねじ上げられた。

主人公「エメル……さん……!」

エメル「痛くはないでしょう? ……動けないだけで」

主人公「っ……!!」

首筋に温かみが触れたと思った瞬間、甘い痺れが駆け下りて……体が動かなくなる。

主人公「やめ……て……!」

エメル「おや? どうしたんです? 先ほどはあれくらい大丈夫と言っていたのに。
    ……それとも、この僕にウソをつきましたか?」

エメル「いや、浅はかにもこの僕を相手に駆け引きのまがいのことをしようとした」

エメル「これは、その代償です」

読書の時間

巧磨「あの、もし今日お時間があるなら向こうの席へ行きませんか?」

巧磨「奥なら、少しくらい話をしていてもあまり目立ちませんし」

主人公「はい、そうですね」

巧磨「じゃあ、どうせだから他の本も……」

巧磨「あっ! ごめんなさい!
   僕、きみにこんなにたくさん重い本を持たせてしまって……」

主人公「あ、これくらい大丈夫です」

巧磨「いえ、僕が持ちますから。――あっ!」

泉翠先輩が焦って、うっかり本を取り落としてしまった。

巧磨「あはは……面目ありません」

主人公(先輩、とってもいいひとみたい)

図書室で先輩に手ほどきしてもらいながら、わたしは宝石の本をいくつも眺めた。

主人公「宝石ってひと口に言っても、こんなに種類があるなんて……
    わたし、知りませんでした」

巧磨「有名で、誰でも知っていそうなのは五大宝石かな」

巧磨「ダイヤモンド、ルビー、サファイア、エメラルド、アレキサンドライト」

主人公「五大宝石……」

巧磨「アレキサンドライトを抜いて真珠を入れたり省いて四大宝石としたり、
   本によっても違うようですけど」

主人公(そういえば、宝石の彼たちも全部で五人……)

巧磨「石言葉も面白いですよね。石にまつわるイメージを表現していて」

巧磨「ダイヤなら純潔、完璧。ルビーは情熱。
   サファイアは高貴と信頼。エメラルドは叡智、明晰」

主人公(叡智、明晰……あ、確かにエメルさんのイメージにぴったりかもしれない)

主人公(エメルさんに似ている、泉翠先輩にも)

エメルさんと雰囲気は違うけど、物知りで、いろんなことを教えてくれる。

まぶたにキス

サフィ「あ、ちょっと待って。
    お姉さん、まぶたの上にまつげがついてる。
    取ってあげるから、目、つむって」

主人公「あ、はい」

わたしは慌てて目をつむった。
すると、サフィくんがわたしの耳許へそっと囁いた。

サフィ「ねぇ。お姉さんって、とっても素直でいい子なんだね」

主人公「え……?」

サフィ「だって、こんな簡単に騙されちゃって」

どういう意味? と聞き返す暇もなかった。

主人公「きゃっ!」

まぶたになにか、温かくて柔らかいものが触れた……!

サフィ「ふふ、単純だなぁ」

主人公「いまの……なに?」

サフィ「なにって、キスに決まってるでしょ」

主人公「!!!!」

サフィ「ちょっと優しくしてあげただけでこんな古典的な手に引っかかっちゃって。
    こっちがビックリだよ」

サフィ「もうちょっと狙われてる自覚と危機感持ったらどう?
    素直でカワイイお姉さん」

マジックアワー

蒼史くんがすとんとベンチに腰掛けて、もう一度空を見上げた。
わたしも一緒にあおのく。

主人公「……太陽、そろそろ沈んじゃいそうだね」

蒼史「うん、一番いい時間」

主人公「いい時間……?」

蒼史「マジックアワー。
   太陽が地平線に沈んで完全に暗くなるまでの数十分間のこと」

蒼史「――ほら。始まる」

主人公「あ……」

蒼史くんの声を合図に、きつい夕日に照らされていた風景が……変わった。

主人公「わぁ……」

空から燃えるような赤が滑り落ちて、とろけるような優しい色に染まってゆく。

なに寝ぼけてンだよ

ルー「なに寝ぼけてンだよ」

だしぬけに、声がした。
この声は――

主人公「ルーさん……?」

ルー「アタリ」

目を擦りながら何度かまばたく。

主人公(……あれ?)

ルー「どうせ寝ぼけンならオレの名前呼べよな」

耳許から聞こえた声に寝返りを打つと、ルーさんの顔がすぐそこにあった。

主人公「なんでルーさんが……ベッドに」

ルー「オマエ、なかなか起きてこねーから寝込みを襲いに来た」

主人公「え……っ!?」

ルー「バーカ、なんだよそのカオ。もっと喜べよ」

ルーさんが笑って、くしゃくしゃっと頭をなでてくる。

ルー「オマエさー。もうそろそろオレ様のこと選んでもいいんじゃねーの?」

ルー「早く、オレが一番だっていう証しを寄こせ」

急にルーさんの指が、ぎゅっとわたしの指に絡んでくる。

ルー「選べよ」

マカロンのストラップ

紅「でさ、その……バイトとはぜんぜん関係ないんだけど……これ」

徒狩くんが、わたしに小さな包みを差し出した。

主人公「これ、なに?」

紅「……あげる」

主人公「え……わたしに?」

紅「…………」

主人公「えっと……開けてみてもいい?」

紅「うん。大したもんじゃないけど……」

主人公「これ、ストラップ……!」

主人公(チャーム、かわいい!)

紅「この間、踏んで壊しちまったから」

主人公「あ……それでわざわざ?」

紅「一応同じの探したんだけど、やっぱ見つからなくて。気に入るかわかんねーけど……さ」

主人公「ありがとう。大切に使うね」

紅「じゃ、オレ……その、先にフロア出てるから!」

大人しく眠れ

アダマス「……もう一度大人しく眠れ」

主人公「え? ……きゃっ!」

わたしの体をベッドへ押しつけて、怖いくらいきれいな面差しがわたしを見下ろしている。

初めて会ったとき、射貫くように見つめられて怖くて動けなかった。
息を継ぐのもためらうほど。

主人公「アダマスさん……」

……いまも、名前を呼んだだけで喉の奥がひりひりする。

アダマス「俺の言ったことが聞こえなかったのか? さっさと眠れ」

主人公「そんな……すぐには無理です」

アダマス「言い訳はいい、目を閉じろ。
     それとも、俺がおまえの口を塞いで息の根を止めてやろうか」

主人公「……っ!」

宝石みたいなケーキ

征一郎「大丈夫? 少し顔色が悪いみたいだけど」

主人公「だ、大丈夫です」

征一郎「そう? じゃあ、ケーキを食べて休憩すれば元気になるかな」

ぎっしり飾られた艶々のイチゴ。散りばめられた銀色のあらざん。

周りを取り巻く繊細な模様の生クリーム――
まるで宝石箱みたい!

征一郎「ちょうどケースに出そうとしてたんだ。
    さっき蒼史からリクエストは聞いたんだけど
    いま食べるならこれが一番美味しいよ」

征一郎「うちの看板ケーキのひとつ、“コフレ”。
    三人のバイトが決まったお祝いにしよう」

宝石登場

城主「改めて――よくぞカルミナへ参った。 城主として、そなたを心より歓迎しよう」

主人公「カルミナ……?」

城主「ここは主なき宝石が集う約束の地、カルミナ」

城主「そしてそなたは、その身に気高き宝石をまとうことを許されし幸福な女」

城主「果たしてそなたは、退屈な私をどこまで楽しませてくれるかな?」

薄く笑い、「城主」と名乗ったそのひとが、大きくマントをひるがえす。
すると――はためくマントの向こう側に、五人の男性が姿を現した。

主人公(なんてきれいなひとたち……!)

城主「彼らこそ、カルミナのうるわしき宝石。どれも極上の輝きだ」

主人公「宝石って……このひとたちが?」

城主「左様」

主人公(どう見ても姿は人間……
    確かにきれいな顔立ちをしているけど、宝石って……どういう意味?)

城主「そしてこの城に辿り着いた女は、彼ら宝石を選ぶ名誉が与えられる」

主人公「選ぶ……?」

城主「左様。次の満月までに己に相応しいと思う宝石をたったひとつ、
   偽らざる思いで、心のままに選ぶがいい」

主人公(この男のひとたちを、わたしが選ぶって……どうして?)