隣ではアルが本を読んでいる。本を器用に片手で開きページをめくっていた。
とても読みにくそうだが、アルは嫌な顔はしていない。
凪咲
(読みにくくないのかな……?)
空いたアルの右手は、私の左手と繋がっていた。
体温は私より少し高いようで、手袋越しでも熱が伝わってくる。

私は困惑していた。
凪咲
「……ねえアル、 なんで手を繋ぎながら本を読んでいるの?」
それに対しアルは、繋がっている手を軽く見下ろす。
しかしすぐに本に目を戻し、ぶっきらぼうに言う。
アルヴィン
「……きみが望んだことだろう」
凪咲
「望んだこと、って。 アルが変な契約書作るからでしょ?」
アルはそれには反応せず、少しだけ指を動かしただけだった。
これ以上聞いても、きっと同じ答えが返ってくるだけだ。
凪咲
「……」
***

ことの発端を思い出して、アルに聞こえないように溜息を吐く。
そんな私をよそに、アルは変わらず本を読み続けていた。
アルヴィン
「……恋人は手を繋ぐものだと言ったのはきみだろう。 何も間違っていないはずだ」
凪咲
「確かに言ったけど……」
恋人が手を繋ぐ時は、もう少し甘いものだと思っていた。これでは、ただ繋いでいるだけだ。