珠紀
「……あははは。足に力、入らないや。立てないよ。どうしよう」

私は自分の情けなさに少し笑う。
祐一先輩が私を無表情に見ていて、それから――。
祐一先輩が不意に近づいて、私に手を伸ばして、抱き上げる。

珠紀
「ちょ!? え? え?」

あんまり驚いて、心臓がドキドキして、先輩の顔を見るのだけど、先輩はいつもと変わらない無表情で……。
でもそこにはどこか、とても柔らかくて優しいまなざしがあるように思えた。

珠紀
「……ゆういち、先輩?」
祐一
「自分を情けなく思うことはない。怖がる必要もない。おまえが立てないなら、俺たちが立たせてやる。俺たちはそのためにいる」

月明かりが青く冷たく先輩を照らしていて、先輩はとてもきれいで、
でも、それは最初に見た時のような、人形めいたきれいさじゃなかった。
祐一先輩の温かさや香り…。そういうものを、ちゃんと感じる。
優しい目がじっと私を見ていて、なんだか私は、この人は、本当はすごく優しい人なんだって、今さらそんなふうに思う。