時は一五〇〇年後期。
恋に憧れ、天真爛漫に尾張の城下町を走る一人の姫がいた。
彼女の名は「市」。尾張国を治める織田信長の妹姫。
誰にでも分け隔てなく笑顔を向ける市と裏腹に、
尾張織田家には民たちが付けた「忌み名」があった。
『魔蒼 』の織田
尾張織田家の血を引く者は皆等しく、
吸い込まれるような漆黒の髪と、碧い瞳を持つ。
その妖艶で人離れした美しさを、民たちは恐れていた。
その魔蒼の一族である市にも、
兄・信長さえも知らない秘密があった。
それは幼い頃、母から織田家の家宝として手渡された
『
そして市が生まれたときから一緒にいる宙に浮かぶ子狐……
人の言葉を話す
しかし、世は