ヒロイン
「わあ……!」
太陽の光を受けて湖面が輝いている。
吹き抜ける水辺の風が気持ちよくて、私はまたしてもはしゃいでしまった。
ヒロイン
「ふふっ、気持ちいい……!」
ギル・ラヴクラフト
「うん。……そうだね」
ギルは、にこにこと笑ってばかりだ。
こうしているのが楽しくて仕方ない、というのが伝わってくる。
一緒に息を合わせて、漕いでいく。
けれどなかなか思ったような方向へボートは進まなかった。
うろうろと湖の上を、白鳥のボートが彷徨っていく。
ヒロイン
「わっ、右に曲がった!
足漕ぎボートって結構難しいのね」
ギル・ラヴクラフト
「そうなんだよ。
俺も子供の頃、良く兄さんと乗ったけど全然息が合わないから大変でさ」
ギル・ラヴクラフト
「でも、コツがあるんだ。
こうして、一緒に力を合わせて漕げば――」
ヒロイン
「あっ、進んだ!」
ギル・ラヴクラフト
「ね?」
ギルがうまく加減をしてくれたのか、急にボートはスムーズに進み始めた。
水を切って、すいすいと進んでいく。
その感覚がまた楽しくて、さらに笑顔になった。
ヒロイン
「すごい! 気持ちいいね、ギル!」
ギル・ラヴクラフト
「うん。
……本当に、可愛いなあ……」
しみじみとした声が、隣から聞こえてくる。
今日何度言われたか分からない言葉だ。
ヒロイン
(ふふっ、ギルったら)
好きな人と一緒にいて。
彼に好きだ、可愛いといっぱい愛の言葉を囁かれる。
付き合って、結婚して、新婚旅行にだって行ったのにまだまだ付き合いたてのカップルみたいだ。
ふと、目の端に珍しい鳥の姿がよぎり、私は良く見たいと思ってペダルを踏む力を緩めた。
するとすかさず、ギルも合わせてペダルの漕ぐ速度をゆっくりにしてくれる。
ギル・ラヴクラフト
「何か見つけた?」
ヒロイン
「うん。あそこの木に止まってる鳥、今まで見たことないなって思って……。
ギルは知ってる?」
湖岸にある木の枝先には、黄色の可愛らしい鳥たちが数匹止まっていた。
ギル・ラヴクラフト
「あれは、ボルトモアムクドリモドキだよ。
この一帯にはよくいるんだ。
近くに行って見てみる?」
ヒロイン
「うん! 見てみたい!」
二人で息を合わせて方向を変え、木の近くに寄ってみる。
気持ちよさそうに羽づくろいしている子や、嬉しそうにさえずりながら首を上下に動かして踊っている子もいる。
ヒロイン
「あれってもしかして、求愛の仕草かな……?」
ギル・ラヴクラフト
「うん。きっと。
……俺たちみたいに運命の相手が見つかるといいね」
ヒロイン
「ええ、そうね!」
上手くいきますように、と心の中で願いながら、しばらく鳥たちの行く末を見守り、ギルと二人でいられる幸せを感じていた。