- メレニス・レヴィン
- 「――おや。初めてのお客さんですね」
- ヒロイン
- 「え……?」
- そこにいたのは、どことなくミステリアスな男性だった。
囁かれた声は静かなのに、不思議な存在感がある。
たおやかなに髪をなびかせて、その人は唇をしならせて微笑んだ。
- メレニス・レヴィン
- 「私はメレニス・レヴィン。人の運命を視るフォーチュンテラーです。
貴女はここへ占いに来た。――Right?」
- ふわりと微笑んで、メレニスと名乗った男性が私に手を差し伸べる。
- ヒロイン
- 「はい。噂を聞いて……」
- メレニス・レヴィン
- 「ふふ。それでは貴女が今一番気になっている未来を、どうぞ教えて下さい」
- ヒロイン
- 「一番気になってる未来?」
- メレニス・レヴィン
- 「私が視るのは、その人の運命。待ち受ける未来のフィルムです」
- メレニス・レヴィン
- 「そしてその中から特に気になる運命を、お告げするのがこの私、占い師の役目です。
――気になる未来を、お教え下さい」
- 気になる未来。それはもちろん――昇格するかどうかだ。
- メレニス・レヴィン
- 「その顔は……恋などではなさそうですね。さしずめ、気になるのは仕事の運勢。――Right?」
- ヒロイン
- (すごい……)
- ヒロイン
- 「当たってます!」
- メレニス・レヴィン
- 「――それでは、貴女の未来の中でも仕事のフィルムにフォーカスを合わせて占っていきましょう」
- 微笑んで、彼がゆっくりと手を上げていく。
ふわりと風をはらんで服の袖が翻る。
そして、彼はドーナツの輪を覗き込んだ。
- ヒロイン
- (……ドーナツ?)
- ドーナツの穴の奥で、彼がスッと目を細める。
静かな風が、彼の髪を揺らしていた。
ドーナツ越しに、淡い色の瞳がじっと私を見ている。
神秘的でどこか人離れした眼差しだ。
- ヒロイン
- (これが……占い?)
- 水晶を覗き込んだりカードを並べたりするわけじゃない。
ただドーナツの輪っかの中から私を見ているだけなのに、心の奥底まで見透かされるような落ち着かない気分になった。
神託を告げる神殿のオラクルのように、彼がゆっくりと唇を開いていく。
- メレニス・レヴィン
- 「貴女の運命は――」
- ヒロイン
- (私の運命は……!?)
- 昇格? それとも、敗北? パパを見返せるだろうかと、固唾を呑んで占い結果を待つ。
- メレニス・レヴィン
- 「…………」
- ヒロイン
- 「…………」
- けれど幾ら待っても、続く言葉はなかった。
- メレニス・レヴィン
- 「…………?」
- メレニス・レヴィン
- 「……未来が……ない……?」
- ヒロイン
- 「え……?」
- 彼がドーナツの穴の奥で、信じられないものを見たように目を見開く。
- メレニス・レヴィン
- 「ほんの数秒先の未来も、過去も視えません。運命がない――こんな人を見たのは初めてです」
- メレニス・レヴィン
- 「いや。もしかして……人ではない……?」
- ヒロイン
- (ぎくっ)
- メレニス・レヴィン
- 「貴女は、一体……」